『現代の理論 DIGITAL』 に、中北浩爾氏(中央大学法学部教授)の「日本共産党からの批判に反論する 事実にもとづかない議論をしているのはどちらか」という論考が載っている。

 

失礼かもしれないが、あまり注目されないメディアだと思う。

3月22日に「特別寄稿」としてひっそりと掲載された。

 

 

 

 

 

まあ、しかし赤旗編集局は「しんぶん赤旗」の紙面に載せなくてほんとうによかったと思う。

もし、これが載っていて、まともな理解力のある党員が読んだら、日本共産党の理論委員会に幻滅しただろう。

 

赤旗編集局は、中北浩爾氏への回答記事で「サンケイ新聞が多大な影響力と公共性を持つ一般紙であること、「公正・公平」の原則をうたっている「新聞倫理綱領」のふたつの点で、「まったく性質の異なる政党の機関紙」を同列において、反論掲載を求めるのは立論として成り立たないと言っていた。

 

 

それはさておき、中北浩爾氏は谷本諭氏の文章に容赦ない批判を加えている。

 

 

この論文はちょっと読みにくいので、パトラとソクラがこの論考を引用して最低限の解説をする。

 

 

1.共産党が連合政権に入閣なら安保容認すべき、閣外なら安保廃棄で矛盾はない

 

まず、谷本氏がこう書いている点についてだ。

 

 “日米安保条約容認の党になれ”“民主集中制を放棄せよ”――つまるところこれが、中北氏が現在わが党に対して行っている主張である。

 

(谷本氏の記事より)

 

これに対して中北氏はこう反論している。

 

これこそ事実にもとづかない批判である。私は、「野党連合政権を目指すなら、日米安保の容認など大胆な政策の柔軟化が必要だ」と論じる一方で、「日米安保条約の廃棄など急進左派の立場を続け、外から政権を批判する」という選択肢にも言及している。共産党が野党連合政権を作りたいのであれば、「安保容認」が必要だといっているのであって、そうでなければ、安保廃棄でも問題はないというのが、一貫した主張である。正確に読んで欲しい。

 

谷本論文は「わが党が日米安保条約の廃棄の立場をとる」と書くだけで、志位議長が野党連合政権では自衛隊とともに日米安保条約を活用するという方針を打ち出し、同条約の第5条に基づき在日米軍に出動を要請する可能性に言及したことに、全く触れていない。立憲民主党などが安保・自衛隊を肯定しているという状況の下、志位氏と私は野党連合政権では安保・自衛隊を容認するしかないという点で一致しているが、この重要な事実を隠している。谷本氏は私を批判するのであれば、志位氏も批判すべきである。

 

(中北氏の記事より)

 

さて、ここは谷本氏の痛いところを突いていると思う。

 

松竹伸幸氏の除名をめぐる藤田健氏の記事や志位氏の記者会見でも、どういうわけか志位委員長(当時)が野党連合政権で「自衛隊活用」「安保凍結」と言ったことには触れなかった。

松竹氏が「核抑止抜きの専守防衛」と言ったのも志位氏のその路線を踏襲したものなのだが、その点を無視していた。

 

 

 

 

志位氏の記者会見に至っては、松竹氏のことを「野党共闘がうまくいかない、その障害になっているのは、日本共産党のそういう安全保障政策にあると。あるいはわが党の自衛隊の段階的解消論が「ご都合主義だ」と。こういって攻撃しているわけです。根本にはそういう政治的変節がある」とまで言った。

 

松竹氏が「政治的変節」なら志位氏のそれは何なのだろうか?

2015年の主張は一時的な気の迷いだったというのだろうか?

 

 

 

 

2.野党連合政権の閣内で安保主張を唱える矛盾も指摘

 

しかし、志位氏は『新・綱領教室』などで、自衛隊活用、安保凍結について、「野党連合政権の下でも共産党としては安保廃棄・自衛隊解消を主張するという立場をとる」と言っていることを知っている党員もいる。

 

それについて、中北氏はこう言っている。

 

私はそれに否定的であり、リアリティがないと考えていることだ。この点については拙著のなかで詳しく論じ、主に二つの理由を示した。

 

一つは、党と政府の使い分けが容易ではないという理由である。共産党として安保廃棄を主張するのであれば、国会で「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)を含む防衛費に反対しなければ筋が通らないが、それでは予算が否決されかねず、政府も倒れかねない。また、尖閣有事などの際、野党連合政権がアメリカ軍に出動要請を行い、米兵に血を流すことを求ながら、共産党自体は国民世論に向けて安保廃棄のキャンペーンを張る、という矛盾した状態に陥ってしまう。自衛隊に関していえば、自らが支える野党連合政権が憲法違反であるはずの自衛隊を活用した場合、立憲主義に反するという批判を招く。

 

(中北氏の記事より)

 

まじめな党員のなかにも、この党の立場と政府での振る舞いの違いを主張する人がいる。

しかし、実際に閣内にいれば、「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)を含む防衛費に今のように国会で反対することはできないだろう。

もっと緊迫感がある尖閣有事などの際に、政府がアメリカ軍に出動要請を行った場合、国会議事堂前で、共産党は安保廃棄で反対運動をするのか、しないのか?

そもそも立憲主義を主張する共産党にとって、綱領で憲法違反と言っている自衛隊について、どうすれば党員に政権合意として理解させられるのか、という問題を解決しないといけない。

 

もう一つは、日本を取り巻く安全保障環境は静態的ではないという理由である。共産党は1998年の不破哲三委員長の整理に基づき、野党連合政権では日米安保条約や自衛隊について「留保」ないし「凍結」、つまり現状維持を認めつつも「現状からの改悪はやらない」という方針をとっているが、それでは中国の軍拡や新たな防衛装備品の開発などに対応できない。2015年に共産党が提案した国民連合政府は、文字通りの暫定政権であったが、その後の野党連合政権は長期にわたって存続することが想定されている以上、この点は明確にする必要がある。

 

(中北氏の記事より)

 

これはつまり、2015年の野党連合政権構想や志位氏の『新・綱領教室』の連合政権が、まだ有効なのかどうかという問題だ。

そして中北氏はこう言っている。

 

容認よりも廃棄の立場をとったほうが、日米安保条約の問題点を鋭く批判することができる。繰り返しになるが、野党連合政権を目指さないのであれば、安保廃棄でも問題はないというのが私の主張である。

 

(中北氏の記事より)

 

閣外でいるのなら、安保廃棄を党として一貫して主張するのに問題はない。

しかし閣内に入るのなら、一旦方針を変えないと政府と党(国会議員も党員も)が矛盾する。

 

しかし、これは日本共産党が民主集中制の組織原則を変えれば、米軍出動を決めた常任幹部会の考えとは違う行動を党員レベルで行っても除名にはされないかもしれないが。

 

 

2.谷本諭氏はドイツ左翼党の組織原則について誤解して立論している

 

次の論点は民主集中制である。

 

谷本氏はこう書いていた。

 

ドイツ左翼党は、「欧州のNATO(北大西洋条約機構)化」と言われる大逆流のもとでNATO反対で頑張っている党だが、一昨年秋、党訪問団が、この党の指導部と会談したさい、党の規約から民主集中制を削除し、派閥を認めたことが、いくつもの派閥をつくることにつながり、その主導権争いがメディアで報道され、深刻な困難に陥っているという悩みが率直に語られた。ドイツ左翼党の経験は、軍事同盟反対という政治変革の立場に立つ党で派閥を認めることがいかに有害かを私たちに痛感させるものだった。欧州の事例をあげて、わが党に“民主集中制の放棄”を求めるなら、こうした事実も踏まえることが必要ではないか。

 

(谷本氏の記事より)

 

中北氏はこれを事実誤認と言う。

 

そもそも左翼党は民主集中制を採用した事実がない。前身の一つの民主的社会主義党(PDS)が、東ドイツの体制政党であった社会主義統一党(SED)から転換する段階で、すでに民主集中制を廃止して党内多元主義を保障し、様々な党内グループの存在を積極的に認めた。そのPDSと西ドイツの社会民主党左派の流れを引くWASGが合流して左翼党が成立したのであるから、民主集中制を採用するはずがない。

 

谷本氏は、ドイツ左翼党がSEDから民主集中制を継承すべきであったと主張したいのであろうか。

 

(中北氏の記事より)

 

この点は谷本氏はさっさと事実を認めて、訂正すべきだろう。

 

日本共産党はヨーロッパの事情を無視して立論することに頓着ない。

これは日本共産党にとって、コミンテルンの歴史を無視してもいいし、ヨーロッパの社会主義革命の崩壊を学ぶ姿勢もないからだろう。

 

 

3.田村智子氏の結語発言がパワハラでないと言うなら第三者委員会で検討すべきである。

 

最後の論点は、田村智子氏のパワハラである。

谷本氏はこう言っている。

 

 民主集中制についても同じである。この間、中北氏が、わが党に“民主集中制の放棄”を説く最大の「理由」の一つとして繰り返しているのは、「民主集中制がパワハラの温床」という主張である。

 

 中北氏は、党大会の結語で「人格攻撃」「組織ぐるみのパワハラ」が行われたと断じるが、結語の内容は、それを読めば明白なように、発言者の「発言内容」にしぼって、その問題点に対して事実にもとづく冷静な批判を行ったものであって、発言者の人格を否定したり傷つけたりするハラスメントでは決してない。発言者の「発言内容」には、党を除名された元党員の問題の政治的本質が、「安保容認・自衛隊合憲に政策を変えよ」「民主集中制を放棄せよ」という支配勢力の攻撃への屈服にあるということへの無理解をもとに、「除名処分を行ったことが問題」だという重大な問題点があった。党大会でそのような発言がなされた以上、結語で厳しい批判を行うことは、あまりにも当然のことである。

 

(谷本氏の記事より)

 

それに中北氏はこう反論している。

 

2024年1月15日から18日に開かれた第29回党大会の「結語」で、現在の委員長の田村智子氏が大山奈々子・神奈川県議に対して行ったパワハラについて、谷本論文は「発言者の人格を否定したり傷つけたりするハラスメントでは決してない」という。しかし、田村氏は「発言者の姿勢に根本的な問題がある」「あまりにも党員としての主体性を欠き、誠実さを欠く発言だ」「まったく節度を欠いた乱暴な発言」などと述べており、事実にもとづけば、人格攻撃というしかない。しかも、多数の代議員が出席するなか、副委員長かつ委員長就任予定者という巨大な権力を持つ立場からの発言である。口調も厳しく、谷本論文がいうような「発言内容」にしぼった「冷静な批判」とは到底いえない。

 

(中北氏の記事より)

 

パワハラ当事者側は、パワハラではないと言っている。

しかし、目撃者はパワハラだと言っている。

まるで、小池書記長が田村智子氏にかつて行ったパワハラ問題のようだ。

 

 

中北氏はこう言う。

 

パワハラという指摘は、決して私だけが行っているわけではない。地方議員など党内からも同様の声が上がっており、産経新聞ばかりか、共同通信も報じている。こうしたなかで、もし共産党が事実をもってパワハラではないということを証明したいのであれば、完全に独立した第三者委員会を設置して徹底的に調査し、報告書を作成すべきである。例えば、性加害問題が発覚したジャニーズ事務所、過重労働やパワハラが指摘された宝塚歌劇団、不正な保険金請求が明るみに出たビッグモーター社についても、そうした方法での対処がなされた。「結語」が中央委員会総会で策定されたものである以上、党指導部は加害を疑われる当事者である。一方的に党指導部の主張を繰り返すだけの谷本論文は、全く説得力に欠けるといわざるを得ない。

 

(中北氏の記事より)

 

要は問題が指摘されているなら、第三者委員会で検討すればいいということだ。

 

よい提案だと思う。

 

しかし、これを読んだ党員が第三者員会の設置を求めるのかどうか?

 

おそらく誰も何も言わないだろう。

 

今の日本共産党は常任幹部会のための組織になっていると思えるからだ。

 

だから、谷本諭氏のような人が理論委員会事務局長を名乗れるのだ。

 

 

谷本氏は中北氏のことを「政治学者として事実にもとづく批判をしているかといえば、そのような批判はどこにもみられない」とまで言っている。

まあ、これは名誉毀損レベルの物言いだと思う。

 

 

心ある党員の方々は、この論争の機会にこの本を読んでみてはどうだろうか?

 

谷本氏が言っているように、事実に基づいて判断するのがいいと思う。