フィンランドのNATO加盟は、平和のための集団的自衛権の選択
フィンランドは2023年4月4日、北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。
スウェーデンはその一年後の2024年3月7日、正式に加盟しました。
世界最大の軍事同盟であるNATOはロシアによるウクライナへの侵攻を受けて、32か国の体制へと拡大することになりました。
フィンランドにとってのNATO加盟の最大理由は、集団防衛体制に組み込まれることで、自国の安全保障が強化されることです。NATO諸国は北大西洋条約5条にのっとって、フィンランドに対する攻撃を、NATOの全締約国に対する攻撃と見なし、集団的自衛権を行使して、フィンランドを援助することになります。
フィンランドは、これまで二度、ソ連(ロシア)の侵略を受けていますが、1939年の冬戦争でソ連(当時)の侵攻を受けて以来、約80年にわたって独立と主権を守ってきました。
ロシアとの間で1300キロ以上の陸上国境を有するこの国が、NATOに加盟することもなく自力でロシアに対処してきました。
そのため、フィランドは外交に力を入れたのとともに軍事力を含む国防体制の構築にも力を注いできました。今も徴兵制を敷いており、その兵力は平時で2万人強ですが、人口550万人の国で、有事の動員は約28万人に及びます。
ニーニスト大統領を筆頭にフィンランド人がNATO加盟の理由として強調するのは、2021年12月にロシアが米国とNATOに提示した安全保障に関する条約案です。この案の中でロシアは「NATOがさらなる東方拡大を行わない」ことを約束し法的に保証するよう求めました。
これはフィンランドにとって受け入れ難い話でした。フィンランドがこれまでNATOに加盟しなかった最も大きな理由は「必要なとき(入りたいとき)には入れる」という環境が整っていることでした。フィンランドはこれを「NATOオプション」と呼んできました。NATO加盟をめぐる議論は、ロシアのウクライナ侵攻前の2021年12月から、フィンランド国内で高まっていました。
そのため、加盟交渉は1日ですみました。
その背景には、フィンランドとNATOとの長年にわたる協力関係があります。フィンランドは加盟申請前から「ほぼNATO」という存在でした。
1994年にはNATOの「平和のためのパートナーシップ(PfP)」に加わり、1995年には欧州連合(EU)に加盟しています。
アフガニスタンでNATOが実施したISAF(国際治安支援部隊)にフィンランドは参加しました。
フィンランドは米国との2国間関係も深めてきています。
防衛協力は30年の歴史があり、その象徴が、1990年代に運用の始まったフィンランド空軍が擁する50機超のF/A-18です。
対ロシア政策のフィンランドとスウェーデンとの違い
フィンランドは、スウェーデンに比べて人口もGDPも約半分に過ぎません。
しかし、その国力に比して強大な軍事力を維持整備してきました。
これに対して、冷戦が終結してからのスウェーデンの国防政策は、国防費の削減、多くの基地の閉鎖など、フィンランドとは異なる側面を持っていた。ゴットランド島も非武装化された。軍隊の運用についても、冷戦期の総合防衛から、危機管理、国際的貢献へと位置付けを変えた。
象徴的だったのは、徴兵制に対するアプローチが、フィンランドとスウェーデンとの間で異なっていた点である。
なぜ、フィンランドとスウェーデンの間に、国防政策の違いが生じたのか。それはロシアをどのように見るのかという対露観に相違があったからだろう。ロシアとの間で1300キロを超える国境を接するフィンランドは、冷戦終結後もロシアの脅威に対して、より高い警戒を維持し続けていたということだ。
一方でスウェーデンは、フィンランド、ノルウェー、デンマークと国境を接しているが、ロシアとの間では、陸上国境を有していない。フィンランドが、いわば壁となって、スウェーデンとロシアを隔てるような形になっている。
フィンランドはもとより、自前の国防力の整備を着実に進めてきていた。ウクライナ全面侵攻によって急速に高まったロシアの脅威に対応するために、強力な国防力という土台の上に、NATOによる集団防衛をプラスアルファしようとしている。自国に危機が迫ってから、泥縄的にNATO、そしてアメリカを頼ろうとしたわけではなかったということだ。
バルト海海洋環境保護委員会(HELCOM)という団体があります。
この団体のシンボルマークはバルト海の形状ですが、北欧の小学校では、平和を祈る女性になぞらえて覚えさせたようです。
これに対してフィンランドでは、18歳以上の男子に兵役が課され、徴兵制が敷かれている。フィンランド憲法第127条第1項は、国防の義務について「全てのフィンランド国民は、法律で定めるところにより、祖国の防衛に参加し、又はこれを支援する義務を負う」
と規定している。兵役の期間は、2013年の法改正によって短縮されたものの、165日(5.5カ月)、255日(8.5カ月)、または347日(11.5カ月)となっている。フィンランドでは、フィンランド大公国時代の1878年に徴兵制が導入され、1950年に国家徴兵法が制定された。米ソ冷戦が終結した後も、フィンランドでは徴兵制が一貫して維持されてきた。
最も大きな要因は、ロシアに対する軍事上の警戒心である。ロシアとの間に1300キロを超える陸上国境が横たわるという事実は、冷戦が終わっても何ら変わりない。隣国であるスウェーデンが、2010年に徴兵制を一旦廃止したのとは対照的だ。なお、スウェーデンは2018年に徴兵制を復活させている。さらに、フィンランドでは1995年から、女性に志願兵役が認められている。希望すれば女性も兵役に就くことができる。2022年には、過去最多となる1211人が参加した。ロシアによるウクライナ侵略以降、軍事訓練を受ける女性が増え、銃の使い方、キャンプの設営方法、応急処置の仕方などを学ぶ女性向けの講座では、順番待ちになっているという。
フィンランドは、NATO加盟について、ただ軍事同盟に集団自衛権で保護を受けたいということだけでなく、国防の視点から検討してきました。
中立政策を守り、軍事同盟を結ばなかったのもロシアの脅威を意識したものでした。そして、ロシアがロシアのウクライナ侵攻は決断をするきっかけになったということでしょう。
北欧の軍事力のバランス、ロシアのウクライナ侵攻を考慮したとき、平和を維持するにはNATO加盟しかないとフィンランドが考えるのは当然のこうとです。