「寿退社ね・・・」
 由美は鼻先でふふんと笑うとジョッキの生ビールを一気に飲み干した。
「私もね、自分がこんな中途半端な状態で辞めるとは思ってなかったわ。だって、この会社って結構居心地よかったんですもの」
「そうね。平均年齢男も女も高目だし、気のいい人が多いし、特に他人のこととやかく言うって事は殆どないし」
「給料だってそんなに悪くなかったしね」
「だったら、どうして?何か有ったの?」
 母親の介護だなんて端から信じてはいなかった。だって彼女のお母さんは兄さん夫婦と同居していて、お嫁さんがしっかり専業主婦しているのだ。
「嵌められた・・・言い方はちょっと過激かもしれないけど、そんな感じかな~」
「嵌められた?誰に!」
 由美は空になったジョッキを弄びながらくるくる回していたが思い出したように「もう一本!」と注文した。
「マア、私がバカだった、って事なんだけど」
「だから、いったい誰が、何をしたのよ」
「大松さん、私と課長の噂、聞いたことあるでしょ」
「え、えーマアなんとなくだけど」
「あの子から聞いたんでしょ。水野沙織から」
「・・・!」
 すごく嫌な予感がした。