「そう言えば絵の発表会ももう直ぐだね。作品は完成したのかい?」
「何とかね。描いても描いても何処か足りないような気がして不安だけど、いまの実力出し切れたかなって思っているの」
「へー君がそんな言い方をするなんて珍しいね」
「上手く描けたとは思ってないけど、母に対する気持ちを私なりに精一杯表現しようと頑張ったから」
「観るのが楽しみだな」
「母さんたちも誘って一緒に行きましょう!本当は少し恥ずかしい気持ちも有るし、怖いような気もするのだけど、でもやっぱり皆に観て欲しい」
「還暦の良い思い出になりそうだね」

(還暦かー)
 夫の言葉に美沙は改めて自分の年令を思った。二十代、三十代の頃は自分にそんな時がやってくるなど思ったこともなかったし、当時その年代の人を凄い年寄に感じていたものだった。
 六十にもなれば人生何事も達観でき、穏やかな小春日和のような日々を過ごしているように思い込んでいたものだ。
 しかしいよいよ自分がそうなると、肉体的には確かに衰えてきているが、気持ちは若い頃からあまり変わっていないような気がする。
 相変わらず怒ったり泣いたり悩んだり、夢や生き甲斐を見つけたいともがいたりしている自分がいるのだ。

 これからも、十年、二十年、多分命を全うする日まで、次々と出てくる出来事に一喜一憂しながら生きていくのだろうなーと思う。その時が何時どこで、どんな形でやってくるのかはわからないが、良い事悪い事色々有ったがまあまあだったと終わりたいと思う。

 最後は病院のベッドで二十三才の生涯を父と母に見守られて逝った姉の悠子、何も言い残すまもなく急逝した舅、美沙と悟に感謝の言葉を残し眠るように逝った姑、それぞれの生涯がとりとめなく浮かんでは消えた。

「日曜日は同窓会だから明日は美容院へ行って久しぶりにパーマでもかけてこようかな!」
 そう言って立ち上がった美沙の横で夫は眠そうにひとつ大欠伸をした。

                 終わり