「えっ?」
「いつもそうやって口で謝りながら、でも本当は自分が悪いなんて思ってないのだろう」
「そんな・・・」
 美沙は珈琲を載せたお盆をテーブルに置きゆっくり夫の方をみた。

「あなたが何と思おうと私は本心からそう思ってるわ。私の意志で子どもも作らなかったし、お父さんやお母さんに辛い思いをさせたことは事実なんですもの」
「そうさ、君の思い込みの所為で僕たちは新しい家族をもてなかった。だがそれだってお袋が口走った言葉が原因だと思ってるんだろ。僕や親父が何を言っても耳を貸さなかったし、お袋だって何度も悪かったって謝ったが君は一度も許すって言わなくってただ、ごめんなさいと繰り返すだけだった」
 美沙は顔面蒼白になり黙って俯いた。

「昔の事だってそうだ。苦労しているお母さんをそれ以上苦しめられない、だから何も言えなかったって言うけど、結局は自分の立場を正当化しているだけじゃないのか?自分がこうなったのはクラスのみんなが悪いから、だからもうあの頃の人たちの顔なんて見たくもない。今更同窓会にのこのこ出かけていってあのころの事思い出すのは真っ平だと思ってるんだろ。時々電話してくる加世さんって人が何を言ったか知らないけど、やっぱり自分の苦しみなんてわかってくれないって思ったのかい。そうやってこれからも思うようにならないことから眼を背けていくのかい?」
「ひどいわ。そんな言い方するなんて、いくら貴方でもひどすぎる!」
「そうかな?僕は思ったままを言っただけだけど」
「貴方に何がわかるって言うのよ!朝教室へ入った途端目に入った様子がどれほどのショックだったのか。昨日一緒に遊んでいて、可愛いとまで言ってくれた友達がゲラゲラ笑ってるのを見て、どんなに悲しくって腹がたったのか。だけどいつものようにお人形さんを抱いてうれしそうに玄関に出迎えてくれている悠ちゃんの顔を見て、どうして学校で有ったことなんか言えるのよ。言える訳がなかった!頭が痛いとしかいえなかった。それからたまに学校に出て行っても私の事ばい菌だって言って近寄ろうとしない人たちを恨んだのがそんなに悪い事なの?」 
「ちっとも悪いことなんかないさ。こんなにひどい事されたのだからってもっと怒ればいいんだよ」 
 夫は美沙の淹れてきた珈琲を手に取り一口啜った。