しかしクラスの友達が悠ちゃんのことを知っても変な顔をしなかったのがうれしかったし、恥ずかしがるような事じゃなかったんだと子供心にホッとしたことも確かだったのだ。
「それが翌日学校の教室へ入ったとき一変したの」
 思わず身震いし肩を震わせる美沙を夫はそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫か?」
 頷きながら夫の手をそっとはずし美沙はソファーに持たれこんだ。
「男の子が二人黒板の前で体を傾けながら面白そうに手を取り合って踊っていて、その周りで十人くらいの子が面白そうに手をたたいたりして笑っていたの。その中に昨日公園で一緒だった女の子たちもいて、私にはそれが凄く楽しそうに見えたの。思わず悲鳴を上げるとみんなビックリして、一斉に私を見たの。それからのことは殆ど覚えてなくて…。ただそれから男の子達が私の傍に寄るとばい菌が移るって大声で言っていたことだけ耳に入って、悠ちゃんはばい菌なんかじゃないって大声で言いたかったけど、きっと他の子だってそう思っているに違いないと思うと声が出なかった。私が悠ちゃんのこと隠していたのはばい菌なんかじゃなくって、ちょっと他の子と違うのが恥ずかしかっただけなのに、私の所為でみんながそう思ったんだって、みんな私が悪いんだって思ったの」
 その日家へ帰ると美沙は倒れこむように寝込んだ。酷い頭痛で頭をあげる事さえ出来ない状態だった。
 その頃母親はパート勤めをしながら姑の介護と悠子の養護施設への送り迎えをしていた。
 美沙は家へ帰ると自分で布団を敷き頭痛薬を飲んで眠った。
 夕方何時ものように悠子を連れた母親は戻った時寝ている美沙に驚いて理由を聞いたが学校での出来事は一言も話せなかった。
 この事は母さんにも悠ちゃんにも絶対知られたら駄目なんだと思ったのだ。
「今思えば、あの時お母さんに何もかも話していれば、何時までも引きずらなかったような気もする。でもあの時は、ただただ怖かったの。私が悠ちゃんのこと恥ずかしいと思っていたことをお母さんに知られることが。私の所為で悠ちゃんのこと、ばい菌だなんて言われたことお母さんが知ったらどんなに悲しむだろうかって、私が悪い子だって知られたくなかったの」
「たった十歳で抱え込んで、辛かっただろうなー」
 そして「誰も君のこと悪い子だなんて思ったりしなかったのに」とポツリと言った。