「美幸さんに朝時子さんから電話があったこと、言った方がよかったのかしら」
 居間で新聞を読んでいる夫の横に座り今の電話の内容を話しながら聞いた。
「あんなに心配しているのに黙っているのが心苦しくて…」
「時子さんがどうしてそう言ったのかは解からないけど、誰にも言わないで欲しいといわれたのなら言わない方がいいさ」
「そうは思うけど。でもみっちゃんが、時子さんのやめる理由をそんな風に思ったなんて考えもしなかったわ」
「それは君が予め事情を聞いていたからじゃないかな。それに」
「??」
「それに美幸さんの言うことが全く的外れとも言えないような気もするし」
「アラ、だって娘さんたちの都合で急な引越しになったのだし」
「もちろん直接の理由はそれだと思うけど、娘さんたちと同居して関西に住もうと決心するまでには色々考えたと思うよ。職場の事情、旦那さんとの此れからの生活、向こうへ行ってからの苦労、何と言っても今まで通りには行かないわけだから。今までの生活を変えようと思うのは簡単なことじゃないからね」
 美沙は夫に言われて単純に娘夫婦の希望で引越しを決めたとだけ思っていた自分が酷く冷たいように思えた。
「そんなことはないさ」
 美沙がふとそんな気持ちを漏らすと夫は笑いながら言った。
「特に君が今親との同居のことを考えていて、そうして欲しいと思っているからよけい素直に時子さんの話を受け入れたんだと思うよ。ただね僕が言いたいのは…」
 夫は立ち上がると一杯飲まないかといって台所へ行きウイスキーと氷、それにグラスをふたつ持ってきた。