夕食後居間でテレビのドキュメント番組を見ている夫の横で美沙は明日の朗読クラブで録音する本の下読みをしていた。
 ちょうど八時を過ぎた頃電話が鳴った。美幸からだと思い大急ぎで電話口に走った。
「今いい?」
「大丈夫よ。私からかけようかとも思ったんだけど都合の良い時間がわからなかったから」
「そんな心配しなくてもいいわよ。今まで娘の婿予定者が来ていて、式の打ち合わせしてたところなの」
「結婚式が済むまでは色々あって大変なんでしょうね」
「まあ基本的には当人達が決めることだから、親には口じゃなくってお金が出して欲しいだけなのでしょうがね」
「そうは言ってもお金を出すからには口も出させて欲しいわよね」
 美幸は当然よねといって軽く笑った。
「忙しい時間にごめんなさいね。他でもないのだけど時子さん急にお店を辞めるだなんて、旦那さんたちと何かあったのかしら。何か聞いてる?」
 美沙は誰にも言わないでという時子の言葉を思い出しながら「特別には」と口を濁しながら「おかみさんが言ってったように娘さんの所へ行くことになったからじゃないの」と答えた。
「だってあまり急だから。おかみさんたちも新しい人を入れなくて順調に進むようになったら却って好都合みたいな雰囲気だったし」
「そうかなー。でも何れは入れるって言ってたよね」
「先の事はわからないわよ。もちろん私や美沙さんは今までどおりの事をやるだけだから関係ないようなものだけど。それでも由美ちゃんが慣れるまではきっと忙しくなるよね」
 美沙の反応を確かめるように一旦言葉を切って美幸は更に続けた。