「美沙ちゃんいま忙しい?もし良かったら一緒にお茶でも飲んでいかない」
「そうそう、今から今度の同窓会の二次会の相談をするんだよ。君も出席してくれるんだろう?」
 君なんて呼ばないで!そう叫びそうになる気持ちを抑えるために美沙は小さく息を整えた。
 断ろうとした美沙の頭に夫の言葉が過ぎった。
(過去と向き合ってみれば案外乗り越えられるんじゃないかな)といった夫の声が聞えた。

「ええいいわよ。一時間くらいなら」
 美沙は加世と高田に精一杯の笑顔で答えた。
 美沙の返事を聞くと高田の顔が嬉しそうに輝いた。
「あら、高田君やけに嬉しそうじゃない。そうね、あなたは昔から美沙に気が有ったものね」
「おかしな事言うなよ、鬼頭さんが嫌な顔してるじゃないか」
 高田は顔を赤らめながら加世に言うとさっさと店へ入っていった。
「嫌ね、いい年をして照れてるんだから」
 加世は鼻先で軽く笑うと美沙の背を押すように店へ入った。

 店の中で高田は窓際の席に座りメニューを眺めていた。二人が席に着くと高田は持っていたメニューをテーブルに置いた。
「僕たちは今からお昼を食べながら話そうって言ってるんだけど鬼頭さんはどうする?」
「私今此処でお友だちとランチ食べたところだから、飲み物だけ」
「そうか、何か無理に誘ったみたいで悪かったね」
「そんなことないわ。私も久しぶりで懐かしかったし気にしないでね」

 二人の会話に無関心な様子で加世はメニューをじっくり眺めていたが大きく頷くと呼び鈴を押した。
「私この千四百円のBランチ、高田君は?」
「じゃあ僕も同じの、鬼頭さんは?」
「私は紅茶にします」
 加世は注文を取りにきたウエイトレスにメニューを渡すと横に座っている美沙を覗き込むようにして話しはじめた。
「随分久しぶりね!三〇年、それ以上よね。ご主人やお舅さんたちはお元気?ご主人確か同い年だったよね」
「主人は元気よ。お母さまやお父様はもう大分前に亡くなられたからずっと夫と二人暮らし」
「鬼頭さん、子どもさんは?」
「子どもはいません」
 美沙は硬い表情で答えた。
そう、子どもは怖くって産むことが出来なかったのと言ってやりたかった。