早速買って来た惣菜と味噌汁を温めなおしてテーブルに並べ食事を食べ始めた。
 夫の気持ちの変化が来年の定年と無関係ではないのだろうと思うと、ありがたいと思いながらも複雑な心境の美沙だった。
「明日手術をして、3日間くらいはおかみさんも店へは出られないだろうといってたから、その間はこんな時間になるかもしれないの。夕食どうしよう?」
「君さえ嫌じゃなかったら、汁物と酒のつまみくらいは自分で用意するから、出来合いの惣菜で暫くいいんじゃないか。それより絵の教室と図書館の朗読サークル、あと養護施設のボランティア、大丈夫なのか?絵の作品展も近いのだろ」
「今週は無理だと思う。他の事はともかく絵の教室だけは行きたかったのだけど、明後日じゃ到底無理だわ」
「そうか…マア家で頑張って描くしかないよな」
「ええ」
 作品展まで四回しかない内の一回が潰れるのは痛かったが、次回までに出来るだけ家で仕上げていこうと思っていた。

「それより・・・」と美沙は美味しそうにビールを飲んでいる夫を見ながらついでのように聞いた。
「辞めてからのことなんて何か考えてるの」
「マア、考えてない訳じゃないがね」と思いのほかあっさりと夫は答えた。
「そうなんだ。何かやりたいこととか、習いたいことがあるの?」
「まだはっきり決めた訳じゃないし、何となく思ってるだけなんだが、大学へね、すぐには無理かもしれないが、学校へ行ってみたいと思ってる」
「大学?」
 思ってもみなかった夫の言葉に美沙は吃驚した。
 夫が高校を卒業する半年前にそれまで父親が営んでいた鉄工所が行き詰まり多額の負債を残して倒産し、希望していた大学への進学を諦めたという話は美沙も聞いていた。
 夫は高校ではほぼトップの成績で教師からも東京の一流大学への進路を期待されていたのだった。