「全くこんな効率の悪い仕事何十年もよくやってきたものだよ!忙しいばっかりで大した儲けにもならないのに」
 そう言うとエプロンをはずし「ちょっとタバコ吸ってくるから」と店の外へ出て行った。

「ごめんなさい。あの人慣れない仕事でちょっとイライラしてて」由美は困ったように頭を下げた。
「別に奥さんが謝らなくてもいいですよ。奥さんこそ慣れない仕事でお疲れでしょ、少し此処へ座ってお休みになったら」
 時子はパック詰めをしながら「私たちも一段落したら交代で休憩しますから」と笑いながら言った。
「ありがとうございます。もう少しで片付きますので、それから休みますから」
「2~3日はおかみさんもお店には来られないだろうから、若旦那さんや奥さんも大変でしょうが頑張って下さいね。なに、お若いんだからすぐ慣れますよ」
 時子の言葉に「ええ」と頷きながら小さく答えると由美は額の汗を拭った。

 一時間近くしてから戻ってきた息子は黙って調理場に入ると今度は何も言わずに野菜のカットや調理器具の洗浄を手伝った。
 スーパーの閉店が七時、売れ残った惣菜は五時頃から割引のシールを貼ると待っていたように買っていく客が沢山居て閉店間際にはほぼ完売していた。
 五時からの割引は恒例となっていて常連客はそれを待っているのだ。

 全ての後片付けが終わって美沙たちが店を出たのは八時を大分回ってからだった。
 予め買ってあった惣菜を持ち自転車で大急ぎで戻ると夫はビールを飲みながら新聞を読んでいた。
「ごめんなさい、すぐ支度するから」そう言いながら台所へ入っていくとコンロの上の鍋から味噌汁のいい匂いがしていた。
「お帰り、ご苦労様だったね。いやー何かおかずでも作ろうと思ったんだがさっぱりわからなくて。適当に味噌汁作ってみたんだが、味の保障はしないがね」
 美沙は心底驚いた。今まで美沙が仕事でどんなに遅くなろうと、別に急がなくてもいいよとは言っても決して手を出したことがない夫だったのだ。

「ありがとう。あなたもお疲れだったのに申し訳ありませんね」
「会社では窓際だからそんなに疲れんさ。マアいつもって訳にはゆかないが一週間ばかりは遅くなるかもしれないって言ってたからな」照れくさそうに笑いながらそういうと美味しそうにコップのビールを飲んだ。