「お先に失礼します」
 美沙は時子と一緒に調理場へいつものように挨拶をして店の外へ出た。

 いつもならスーパーでついでに買い物を済ませるのだが、今日の夕食は外で教室の仲間と食べる予定なのでそのまま自転車置き場へ行った。
 自転車のキーをはずしていると、「美沙さん」と呼ぶ声がして振り向いた。
「あっ時子さん、もう買い物済んだのですか?」
「亭主と二人だもの、買う物なんてほとんどないのよ。そこまで一緒に帰ろうか」
 途中の交差点まで時子と同じ方向なので二人は自転車を引っ張りながら歩き出した。

「お店ねー」
 時子がちょっと考えるような感じで話し始めた。
「旦那さんが入院して息子さんとかお嫁さんがやるようになると慣れるまで大変だよね」
「息子さんって、どんな仕事されてるの?」
「今は健康食品の営業だって聞いてるけど。あの仕事も中々大変みたいで…旦那さんたちにしてみれば何れはお店を一緒にやってもらいたいと思ってたんじゃないのかなー」
「じゃあちょうどいい切掛けになるかもしれませんよね」
「だよね。でもあの店も代がかわると雰囲気も違ってくるかもね」
「だって旦那さんが退院したら店に戻ってくるだろうし、おかみさんだっているから」
「だから…人手が増えたら私たちお払い箱かなーなんて思ったりしてね。まあ美沙ちゃんは若いから使ってもらえるだろうけど、私はね」
「まさか!ダメな時は二人一緒ですよ」

 美沙の言葉には答えず時子は交差点の信号を見ながらいった。
「まあ、とりあえず旦那さんが退院するまでは大丈夫だろうから、今から心配したって仕方ないよね、じゃあねまた明日」
 美沙は笑顔で手を振りながら走り去る時子の後ろ姿に手を振り見送った。