2022年3月16日から3月18日まで開催された第99回日本生理学大会で「体液イオン環境制御の分子メカニズムと生理学的・病態生理学的意義」という演題で丸中義典先生が特別講演をなさいました。

 

この講演で丸中先生は動脈血のpHでなく、間質液のpHの重要性を力説なさったのですが、この講演には実に感服いたしました。

 

血液中、特に動脈から採取された血液のpHは7.4前後、正確には7.35から7.45という狭い範囲に制御されています。酸性でもなく、かつ、アルカリ性でもない中性がpH7.0ですから、正常な状態では動脈血は弱アルカリ性ということになります。

 

ところが、何らかの理由で動脈血のpHが低下し、正常より酸性になったときはアシドーシスという疾患になります。一方、動脈血のpHが上昇し、正常よりアルカリ性になったときはアルカローシスという疾患になります。

 

例えば、動脈血のpHが7.1のときには、pHそのものとしては弱アルカリ性であり、酸性ではありませんが、それでもアシドーシスになります。

 

このように、通常は主に動脈血のpHで正常、アシドーシス、アルカローシスを判断しています。臨床の現場では、pHだけでなく、他の因子も考慮しているでしょうが、pHが最も重要な因子になります。

 

ところが、丸中良典先生は、間質液のpHを重視しています。

 

このブログの読者は医学、生命科学系に限らないでしょうから、間質液について簡単に説明いたします。

 

人体は多数の細胞から構成されています。

 

体液は、細胞内部にある細胞内液と細胞外部にある細胞外液に二分することができます。

 

細胞外液は、更に、血漿(血液の液体成分)、リンパ液、間質液などに分類することができます。

 

ここで、血液といいたくなるのですが、血液中のヘモグロビンは液体でなく、固体です。血液からヘモグロビンのような固体成分を除いた液体成分は、血漿と命名されています。

 

間質液は細胞の周囲を満たす液体になります。

 

血液が細胞に栄養を供給したり、細胞からの老廃物を運び出しますが、血液と直接、接触している細胞は血管内皮細胞という血管の一部となる細胞ぐらいです。

 

血管を構成する細胞以外は、血管から直接、栄養物の供給を受けるのでなく、間質液から栄養物の供給を受けています。また、間質液を経由して、老廃物を除去しています。

 

そうすると、細胞の健康というか代謝のためには、間質液のpHが実に重要になるのです。

 

ところで、血液中にはヘモグロビンがありますが、ヘモグロビンにはpHの変化を緩衝する作用があります。これに対して、間質液にはヘモグロビンがないので、ヘモグロビンの緩衝作用はありません。

 

これに伴って、動脈血のpH範囲と比べて、間質液のpH範囲は広くなります。間質液のpHが低すぎたり、高すぎると、細胞に悪影響を与えるのは明らかなので、丸中先生の慧眼はこの点に着目しています。

 

ここで、丸中先生の講義について補足することになるのですが、pHとして表示するときには、水素イオン濃度の対数を計算しています。

 

要するに、pHが1異なると、水素イオン濃度は10倍異なります。例えば、pHが6.4の液体は、pHが7.4の液体に比べて、水素イオン濃度は10倍になります。

 

ところで、3.16の2乗(3.16x3.16)が10であり、10の平方根が3.16です。また、7.4-3.16=7.064となります。

 

そうすると、pHが7.064の液体は、pHが7.400の液体と比べて、水素イオン濃度は2.0倍になります。

 

pH7.400と表記しているのですが、小数点以下3桁が有効数字という意味になります。

 

また、計算してみると、pH7.00の液体は、pHが7.40の液体と比べて、水素イオン濃度は2.5倍になります。

 

ここで、pH7.00と表記しているのですが、小数点以下2桁が有効数字という意味になります。同様にpH7.40という表記は小数点以下2桁が有効数字という意味になります。

 

pH6.9の液体は、pHが7.4の液体と比べて、水素イオン濃度は3.16倍になります。

 

ここで、水素イオン濃度は3.16倍というのは簡単な計算になります。

即ち、3.16x3.16=10になります。

一方、pH7.4とpH6.4の丁度、中間はpH6.9になります。

 

pHは水素イオン濃度の対数になるので、pHが少し変化しただけであっても、水素イオン濃度は大きく変化しています。