2021年10月19日から日本化学会が主催する化学フェスタが始まりましたが、初日に有機触媒化学がご専門の丸岡啓二京都大学薬学部特任教授が、2021年度ノーベル化学賞を解説する講演がありました。

 

この講演のタイトルは、「不斉有機触媒の開発 ノーベル賞の裏側を探る」でした。500人を超える聴講者がいたのですが、有機触媒の専門家以外が聴講することを想定して、分かりやすい講演をなさいました。

 

2021年度ノーベル化学賞は、ドイツのベンジャミン・リスト教授と米国のディビッド・マクミラン教授が受賞していますが、二人とも不斉有機触媒が専門になります。

 

2021年10月上旬にノーベル化学賞が発表されてから15分後に日本化学会企画部から丸岡先生に対して電話があり、化学フェスタでノーベル化学賞の解説講演を依頼され、今回の講演が実現いたしました。

 

有機合成化学では、C-H活性化、有機触媒がホットな話題ですが、丸岡先生本人が専門である有機触媒が評価されて嬉しいとのこと。

 

触媒は酵素、金属触媒、有機触媒の3種類に分類されますが、今回、有機触媒の発展に貢献した二人の化学者がノーベル化学賞を受賞しています。

 

従来、金属触媒は酵素より汎用性が高いという観点で化学合成に広範に用いられていました。特に、金属原子と配位子が分子レベルで化学結合した有機金属化合物が触媒として用いられていたのですが、金属と配位子との組み合わせは無数にあるので、多種多様な触媒を合成することができます。要するに、金属触媒といっても、典型的には有機金属化合物を意味します。

 

有機金属化合物の触媒作用の研究開発により、多数のノーベル化学賞受賞者を輩出しています。

 

2001年には、名古屋大学の野依教授が、ルテニウム錯体触媒による不斉水素化でノーベル化学賞を受賞しています。

 

2010年には、北海道大学の鈴木教授と、パデュー大学の根岸教授が、パラジウム触媒による炭素―炭素カップリングでノーベル化学賞を受賞しています。

 

ここで、ルテニウムは金属の一種であり、パラジウムも金属の一種です。

 

また、炭素―炭素カップリングとは、炭素原子と炭素原子が新たに化学結合を生成する化学反応のことであり、パラジウム触媒がこのような化学反応を促進いたします。

 

有機化合物の骨格では、炭素原子と炭素原子が化学結合しているので、有機化合物の合成法として、炭素―炭素カップリングは意義があります。

 

実験室レベルで有機金属化合物などの金属触媒を用いるのはよいのですが、工業レベルで有機化合物を製造するとなると、毎日、トンレベルで製品を製造することになります。すると、有機金属化合物を触媒としたときには、生成物が微量の金属で汚染されることになり、環境に負荷を与えるという問題があります。

 

昨今、グリーンケミストリーという環境にやさしい化学が脚光を浴びています。有機触媒は、金属を含まず、触媒作用を持つ低分子有機化合物のことですが、触媒中に金属を含まないので、触媒を使って有機合成をしても、金属で環境を汚染しない点が着目されています。

 

2000年前後から有機触媒organocatalysisが勃興して、脱金属触媒として注目されています。

 

有機触媒の一例がL-プロリンであり、L-プロリンは不斉アルドール反応の触媒となります。L-プロリンそのものだけでなく、L-プロリンを修飾したプロリン誘導体が合成され、プロリン誘導体も触媒として作用することが分かっています。

 

ここで、L-プロリンはアルファアミノ酸の一種であり、更に、タンパク質に含まれる20種類のアミノ酸の一種になります。

 

プロリンには5員環骨格がありますが、この5員環骨格は4つの炭素原子と1つの窒素原子で構成されており、この窒素原子は二級アミノ基(NH)の窒素原子になります。

 

タンパク質に含まれる20種類のアミノ酸のうち、19種類のアミノ酸では、アミノ基は一級アミノ基(-NH2)ですが、プロリンのみが二級アミノ基(NH)となっています。

 

以下、アミノ酸について補足説明いたします。タンパク質に含まれるアミノ酸は20種類に限定されていますが、これらの20種類のアミノ酸は全てアルファアミノ酸となっています。アルファアミノ酸ということは、一つの炭素原子にアミノ基とカルボキシ基が化学結合していることを意味します。

 

ところで、アミノ酸というだけで、アルファアミノ酸を意味することは多々ありますが、厳密にはアミノ酸といっても、アルファアミノ酸もあれば、別途、ベータアミノ酸、ガンマアミノ酸などもあります。ガンマアミノ酸としては、通称、GABAが有名です。

 

また、アミノ酸と表記してあっても、タンパク質に含まれる20種類のアルファアミノ酸を意味していることは多い。厳密にいうと、アルファアミノ酸といっても、タンパク質に含まれる20種類のアルファアミノ酸もあれば、それ以外のアルファアミノ酸もあります。

 

長くなったので、このあたりにいたします。