昨日出願費用のことを書いたら、半一の坂本代表から、中小企業にとっては出願費用は高すぎる、とのコメントをいただいた。


弁理士に依頼すると特許出願では、通常20万円~60万円、審査請求に特許庁印紙代だけで17万円~20数万円(請求項数による)、拒絶理由対応で、1回10万円~20万円、登録査定が出ると、登録の成功報酬で10万円~30万円(請求項数による。)。全部で60万円~100万円はかかるので、確かに中小企業にとっては安い金額ではない。


だから、最低でもそれ以上の利益が出る必要があるし、特許出願した製品よりもいい製品を出したので使わなくなったというような場合はその特許は使わないので利益を生まない。もっとも、それが他社の参入障壁になるという面はあるので、持っておいた方が売上全体では上がることもあるのだが。


ある大企業が自社特許の使用率を調べてみたら、50%程度が実際に役に立っている、というようなデータを発表していた。それには上記のような他社参入阻止に役立つ特許も含まれているし、実際に侵害事件が起こったわけではなく、販売中の製品で使っているというだけの技術もあるだろう。


製薬企業等では、1つの特許を世界中に出願するので、特許1件あたり、1億円の特許費用を予算化しているようだ。医薬の場合はたった1つの物質特許で100億だろうが、1000億だろうが、1兆円だろうが、守ることができる。


そして医薬特許は延長制度があるので、出願から25年間独占販売が可能である(実際には臨床試験で10年~15年かかるので、販売期間は10年~15年だが)。


だから、それだけの予算を使っても十分利益が出るわけだ。逆に特許がなかったら医薬ビジネスは成り立たない。


結局出願費用が高いかどうかは費用対効果の問題だろう。いくら安いと言っても使えない穴だらけの明細書を書く弁理士には頼む意味がないだろう。


逆にアメリカの特許弁護士のように1出願300万円でも、それによって億の利益が守れるのであれば高くてもそこに頼む意味はある。後で無効になってしまったら意味がないからだ。


要は特許でどれだけの売上を守るかによって、特許出願をするかどうか、費用をどのくらいかけるか?が決まってくる。


中小企業でも海外に多数出願している会社もある。そういう会社はその国でビジネスをしている。


つまり、特許もビジネス戦略上必要で、投資額以上のリターンがあるのであればいくら費用がかかっても出願すべきだし、特許無しでノウハウで隠せるのであれば、出願せずに販売する手もあるだろう。また、あまりに市場が小さい場合は、実質裁判ができるほどの損害が出ないのであれば出願する意味はない。権利行使しない特許は持つ意味がない。


そういう意味から言えば、特許出願費用が高いかどうかは製品の売り上げ規模やマネされる危険性の大小等によっても変わってくる。


医薬のように年間1000億円の売り上げをたった1つの特許で守れるのであれば、決して高いとは言えないだろう。そう考えてみるとやはり売り上げ規模がある程度ない製品に特許を出願するのは厳しいし、非常に小規模な市場であれば、特許出願しても侵害額も大した額にはならないので裁判費用の方が高くついたりするおそれもある。


一方、ライセンス料だけで300億円稼いでいたパイオニアのDVDのピックアップ装置の特許の例もある。技術標準になるような基本特許は中小企業といえども出願すべきではなかろうか?特許ライセンスだけで食べて行っているベンチャー企業もあるがそういう会社は特許が命である。


結局、特許出願するかどうかはその企業のビジネスモデル、経営戦略と密接に結びついている。研究開発、特許、営業の三位一体の経営が求められるゆえんでもある。今では、もっと多くの要素が複雑に絡み合って、全社戦略の中に知財戦略が組み込まれ、いわゆる知財経営が行われている中小企業もあるようだ。