予定通り入院して迎えた出産当日の日。
前置胎盤は改善されず、そのまま帝王切開になった。

入院している部屋のテーブルに赤いカーネーションが置かれていた。
夫が買ってきてくれたものだった。

出産当日は「母」になる日。
本当の意味での母の日なのかもしれない。
机のカーネーションが、そんなことを気付かせてくれた。
夫の心遣いが嬉しい

帝王切開はそんなに難しい手術ではないとは言われるけど
妊婦にとってはとても不安・・・
何らかの異常があるから帝王切開になるのであって
その不安と言ったら当事者しかわかりえないかもしれない。

私も初めての出産でさらに初めての手術。
前置胎盤は生死にもかかわることがある。

ドクターからは
「出血が止まるかどうかは、あなたの子宮収縮力次第です」
医学ではどうにもなりませんというような突き放された感はあったけど
その通りなんだろうなぁ。
自分の子宮を信じるしかない。

手術室に入り、夫は外で待っていた。
この病院は帝王切開は立ち合いができず、
ずっと立ち会い出産を希望していた私たちの希望はかなわなかった。

手術室はいきなりBGMのJ-POPが響いていた。
患者をリラックスさせるためらしい。

背中に麻酔を打ち準備へ。
麻酔が効くまでは、麻酔の注射は痛かった・・・

帝王切開手術は順調に進んだ。
なんと赤ちゃんが出てくるまで10分程度しかかからなかったらしい。
しかし、私にはかなりの時間に思えたのはなぜだろう。



ほうぇあ~・・・ ほうぇあ~・・・

か細い泣き声。
(後ほど確認したところ、赤ちゃんはオギャーと力強い泣き声では生まれないらしい)


手術室のスタッフ全員が「おめでとうございます!!!」


え?生まれた?
私はカーテンで見えませんが?

その後助産師が私のところに連れてきてくれた。
赤ちゃんは、紫がかかったピンク色の肌で目はつぶっていて腫れぼったかった。

「おめでとう。かわいい
その時、私がかけられた言葉は以上。
赤ちゃんはすぐに新生児室へと運ばれた。

待望の赤ちゃん「ぴくちゃん」の誕生。

廊下で待機していた夫が唯一撮れた写真がこちら。
 


その後、私の子宮とおなかは閉じられていった。
前置胎盤にしては少なめの出血は1000ml。
無事、終わった。

しかし、手術が終わって手術室から出る前に
ぴくちゃんが小児科に入院したことを知らされた。
帝王切開でよくあるという呼吸の問題がみられたらしい。

手術、出産、保育器・・・
初めてのことでどれも実感がわかず、何がなんだかという感じだった。

その後、看護師6名が私を入院している部屋に運んだ。
6名も!?とびっくりしたけど、
帝王切開はいろいろとその後もやることがあるからだとすぐに分かった。
麻酔で動かない私の体は、6名の看護師にいろいろと処置をされた。

部屋で夫と会い、保育器の話をした。

「うん、俺もドクターから聞いたよ」

「ぴくちゃんの力を信じてあげよう」

私は手術室でたった30秒ほどしかぴくちゃんと会っていない。
すぐに会いに行きたくても、帝王切開で移動が許可されるのが出産翌日からだった。

その後、夫が呼び出されて説明を受け、ぴくちゃんとの面会は夫に託した。
ビデオとカメラの両方を使って様子を教えてくれた。
出産当日は、ぴくちゃんは酸素を送られたり、点滴などの管だらけだった。
 
時々泣いている様子だった。

帝王切開で寝たきりのまま出産が終わり
出産直後たった30秒しか会えず、その後母子断絶状態になり
私は本当に出産したんだろうか?と実感がわかなかった。

嬉しいとか悲しいとかそういう感覚ではない
ある意味でハイな変な感覚だけが残っていた・・・


出産翌日、ぴくちゃんとの面会に車椅子で出かけた。
帝王切開の傷が痛んで体が思うように動かず
やっとの思いで車椅子に乗った。

NICUと言われる新生児が入院しているところへ行った。
保育器が何台かならんでいて、ぴくちゃんはどこだろう?
遠目から保育器に入ったぴくちゃんを見つけた途端、涙がこぼれた。

生まれたんだ・・・

小さな体で頑張るぴくちゃんを見て、やっと出産の事実を確認できた気がした。

 
呼吸は落ち着き、重々しい器具は外されていた。


保育器の中に手をいれてぴくちゃんに触れてみる。
私の腕についた点滴の管が邪魔で奥まで伸ばせない。
でも、確実に、ぴくちゃんの小さな手に触れた。
ぴくちゃんは管から20ccのミルクを飲んでいた。

小さい手足を動かすぴくちゃん。
目も開いたり閉じたり。
声をかけてみた。誰だかわかるかな?

症状は日々良くなっていき、出生2日目には哺乳瓶でミルクを与えることができた。
 
元気にゴクゴク飲んでくれて安心した。


母親達の授乳指導が産科の授乳室で行われた。
集合時間に授乳室を開けると、たくさんの赤ちゃんの泣き声と
胸に赤ちゃんを抱いて授乳している母親がたくさんいた。

いきなり涙が溢れそうになり、必死に堪えた。

出産直後で情緒不安定なのだろうか?と思ったけど
やっぱり心の奥底では、ぴくちゃんに早く母乳をあげたいと思っていたのだと気付いた。

その後、夜な夜な手で搾乳しては、ぴくちゃんに母乳を届けた。
1時間かけて搾乳しても、最初は10mlくらいしか絞れず、さらに腱鞘炎になりかけていた。

それでも、母乳が出ることで、ぴくちゃんとつながっている気がした。
深夜、小児科に母乳を届ける時、
閉まったカーテンの向こうにいる保育器のぴくちゃんを思い浮かべていた。


私の方が先に退院することになった。
1週間ぶりに家に帰ったら、家じゅうがピカピカに綺麗になっていた。
夫が頑張って掃除してくれたそう。
毎日私とぴくちゃんのお見舞いに来て、夜遅くに帰っているにも関わらず
ホテルのようにピカピカに磨いてくれていた。
本当に夫には感謝してもしきれない。


ぴくちゃんに母乳を届けるために電動搾乳器を購入し
退院後も夜な夜な搾乳して、毎日面会時間にぴくちゃんに届けた。

そして、ついに出産5日目、ぴくちゃんが保育器から出て
母乳をあげられることになった。
ぴくちゃんは、迷わず私にしがみついておっぱいを求めてきた。
 
小さい口で一生懸命吸う姿がかわいかった。

そして、本当に母親になったんだなあと感じた。


その後も順調に経過し、ぴくちゃんは10日目に退院した。
 
 
出産当日も、退院当日も土砂降りの雨だった。
ぴくちゃんは雨女かな?

でも、我が家の太陽になったのは間違いない。

ぴくちゃん、お誕生おめでとう