津村記久子さんの『とにかくうちに帰ります』を読了しました。

本作には『職場の作法』、『バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ』、『とにかくうちに帰ります』が収録されています。

※以下個人メモのため、ネタバレあり

 

『職場の作法』

「ブラックボックス」

同僚・上司の言動を点数化して、自らの事務処理の時間配分の前倒し・先送りを決めている(ように見える)田上(たがみ)さん。

私(後に「ブラックホール」で鳥飼早知子と判明)と、先輩社員の浄之内さん(「ハラスメント、ネグレクト」で下の名前を文子と明らかになる)は、それが田上さんの「仕事に対するブランディング」だと憶測する。仕事ができ、ぽっちゃり体型の田上さんだが、”閻魔帳”とも思えるノートと時折にらめっこしている。営業の新入社員、河谷君の思わぬ一件で、ノートに書かれた田上さんの仕事の心構えを知ることになる…。

 

・どんな扱いをうけても自尊心は失わないこと。またそれを保ってると自分が納得できるように振舞うこと。

 

・不誠実さには適度な不誠実さで応えてもいいけれど、誠実さに対しては全力を尽くすこと。

同僚や上司の要求だけでなく、自分のことも大切にしたい田上さんの仕事の進め方にとても納得がいった。 鳥飼には理解不能のようだったけど。

 

「ハラスメント、ネグレクト」 

鳥飼から見た、浄之内さんと営業部長・北脇部長の話。浄之内さんは実は家柄の良い家庭の人で、その従妹・浄之内志帆子という美人市(県?)会議員との関係について深掘りしてくる北脇部長が迷惑、という話。河谷君もちょっぴり出演。

 

「ブラックホール」

定年間近の間宮さんが、鳥飼の万年筆・ペリカーノジュニアを借りパクしたのでは、と鳥飼が疑う話。間宮さん、浄之内さん他、同じフロアの社員が不在中に(田上さんだけ在席)、ひょんなことから間宮さんのデスクの引き出しで発見する。間宮さんの日報「会長、ギジェルミーナを娘として認知」ってなんやねん。

 

 「小規模なパンデミック」

鳥飼がインフルエンザで会社を休み、仕事復帰すると今度は同僚達が次々と休んでいく。間宮さん、河谷君、田上さんまで…。営業部の山崎さんは大きな咳をしながらも、マスク買う?タミフル買う?としつこく訊いてくる。ついに大半の社員が会社を休み、臨時休業になった。翌日、山崎さんはひっそり休んでいた。浄之内さんは自転車通勤でインフルエンザの魔の手から逃れられたようだ。

 

『バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ』

『職場の作法』の鳥飼が主人公、浄之内さん、田上さんとの昼休憩に、テレビで観たフィギュアスケートのフアン・カルロス・モリーナ選手の話題を避けるというお話。パッとしない成績の選手だが、なぜか試合を追ってしまう鳥飼。

鳥飼は、浄之内さんが気になる選手やスポーツチームは悉く運を掴めない、という自分の中のジンクスを再現させないため、フアン・カルロス・モリーナへの興味を隠す。が、浄之内さんは既にその選手の存在を知っていて…。

選手の彼女でコーチのフロレンシアとの関係の悪化、教え子ゴンサロとのライバル関係、アルゼンチンの暖冬を乗り越える。

 

『とにかくうちに帰ります』

荒天のため徒歩で帰宅途中、コンビニで営業部の後輩オニキリと出くわしたハラ。

翌日別れた嫁が連れて行った我が子に久しぶりに会うため、何としても今日中に帰宅したいサカキと、コンビニで知り合った小5のミツグ。

2組が大雨の中、迂回して橋を渡り、バス停を目指す。子供じみたオニキリと対照的にませたミツグ。話者視点のハラとサカキ。どの登場人物も憎めない。