社員の手が足りないので、

フルタイムのパートさんに社員と同じ権限を与えるらしい。

 

もちろん手数が増えれば助かる。

けれど…。

 

フルさんに仕事を教えてもらった時、

「何故この作業をしているの?」と聞くと、

「知らないです、教えてもらった通りにやっているだけなので」と

返答されることがしばしば。

任せて大丈夫だろうか?という不安と。

 

社員と同じ権限を与えるということは、

その作業の最終責任を負わせることになる。

それは負担が大きいのでは?という心配がある。

 

今日、唯一60歳を超えてるフルさんから話があった。

「権限のことを聞いたけれど、

 私には無理だから今後のことを考えています」と。

 

そう…私もこの人のことを1番心配していた。

人柄はとても良く、以前は仕事ぶりも抜群だったベテランさん。

ただ最近は、新しい業務はなかなか覚えられない傾向にある。

 

現段階ではもう、権限を持って仕事を続けるか、退職するかの2択しかない。

負担に耐えられないと上に訴えても、

それなら今まで通りで…という展開はありえない会社だから。

この人がいなくなれば、係にとってとても痛手になる。

それなのに、だ。

他のフルさんの手前、許されないというのもあるだろうけど。

 

そんな話をしていたら、ふとフルさんが

「60歳になった時にマイモさんからもらったカード、

 ケースに入れて花と一緒に飾っているんです」と言った。

以前、還暦のお祝いとして、

赤系の花のハーバリウムとバウムクーヘンを贈り、

それに添えたカードのことだ。

フルさんの人柄と仕事ぶりに対して、称賛と感謝の言葉を書いたもの。

 

「それを見ていつも励みにしているんです。

 娘からも“お母さんの元気の素だね”って言われてるんですよ。」

 

そんな風にしてくれているなんて思ってもみなかったから、嬉しかった。

それと同時に申し訳なかった。

 

今年になってから次々に新しい仕事が始まり、

フルさんが初歩的なことを間違えたり

何度説明しても覚えていなかったりで

イライラしてかなり厳しい口調で注意することもあった。

 

育休から復帰した後輩と最近話した時、

「5月に復帰した時、あのフルさんの顔やばかったですもんね。

 最近は表情が明るくなってきましたけど。」

そんなに追い詰められた表情をしていたなんて、

私は気付いてもいなかった。

 

そんな私の言葉を、励みにしてくれていたなんて。

いつも自分のことに精一杯で、

時に配慮を欠いてしまう、私なんかの。

 

退職して欲しくない。

定年まで働き続けて欲しい。

でも権限を持って仕事をするには、精神的負担が大きすぎる。

権限者のミスは、多大な影響を及ぼしてしまうこともある。
辛い想いをして欲しくもない。

 

「今の上の人達って個人のメンタルのことなんか全く考えてないですよね」

と後輩が言う。その通りだと思う。

他の選択肢は許されないんだろうか。