母が多系統萎縮症とわかってから、病気の進行は信じられないくらい早かった。

一昨年まではカートを押しながらでもひとりで買い物に行けていたのに、いまは介助なしには起き上がることもできない。

起き上がっても血圧が乱高下するせいで、長く座っていることもできない。

私が母の介護をしたのはホスピスに入るまでだから、そう長い期間じゃなかったけど、我が家の家事を担ってくれていた母が心身共に急激に変化していく様子にショックをうけたし、母の食事から排泄に至るまで一日中お世話に追われ、家事をやり仕事をし、介護関係のいろんな人と連絡を取り、通院に付き添い、ときには心ない言葉を浴び、そういうのは決して楽ではなかった。


これまで親族のなかで自宅介護していた人はいなかったし、どうしたらいいのかもわからなかった。

とりあえず、手当たり次第に介護用品を試してみたりもした。

そのなかで案外良かったのはこれだった。


 

 



 

 

母は手元がかなり不安定なことと、口がうまく閉じられなくなっていたから、食べこぼしがひどかった。

エプロンをつかうことで、床掃除や服の洗濯を少しでも減らすことができた。

本人もこぼしてしまうことに気を取られて食事を中断することが多かったけど、エプロンにこぼす分には拾って自分で口に入れ直すこともできたし、食事に集中できていたと思う。

まだ車椅子で出掛けられたときには、外食のときにもこれを使った。

ホスピスにいるいまでも、私たちが一緒にいるときはこういう使い捨てエプロンを使っている。


早い段階でお箸は無理になったけど、介護用の持ちやすいスプーンだとかコップみたいなものは嫌がった。

少しでも『普通』でありたいという意思表示だと思って、多少うまく口に運べなくてもそれは自由にさせた。


母はいま、ホスピスの近くにあるイオンモールに行くことを目標にしている。

熱が下がったら、酸素吸入が終わったら、行こうと話している。

イオンのあとは動物園に行き、水族館にも行き、USJにも行きたいと笑う。

介護タクシーの運転手さんもひっくり返ると思う。

でもそれが母の希望なら、1日ひとつずつ、ちゃんと全部叶えてやりたい。

心からそう思う。