民放のドラマはTBSを割合観ているほうでした。

すぐにタイトルが頭に思い浮かぶのは、「ふぞろいの林檎たち」、「金曜日の妻たちへ(共に1983年)、「想い出にかわるまで」(1990年)、「眠れない夜をかぞえて」、「ずっとあなたが好きだった」(共に1992年)、「誰にも言えない」(1993年)、「愛していると言ってくれ」(1995年)などです。

フジテレビではどんなドラマを観ていたっけ、と探してみると、

早春スケッチブック」(1983年)や月曜ドラマランド、中山美穂さんのドラマ「な・ま・い・き盛り」1986年)、「おヒマなら来てよネ!」(1987年)、前にも書いた「スタア誕生」(1985年)、「世にも奇妙な物語」(1990年〜)、「眠れる森」(1998年)、昼間に家にいれば東海テレビ制作の「華の嵐」(1988年)や、ライオン午後のサスペンス(NHK銀河テレビ小説みたいでサスペンスものが面白かった)を面白く観ていました。

 

当時の私のイメージはTBSはドラマの王道らしく正攻法で作っている、フジテレビは「明るくて軽くて元気」というものでした。有名な「君の瞳をタイホする!」「抱きしめたい!」(共に1988年)から来るイメージかもしれません(と言っても、これらトレンディドラマと呼ばれるものはあんまり観ていないんですけどね)。または、お昼の帯で放送されていたバラエティの「笑っていいとも!」も、そのイメージを後押ししていたと思われます。

フジテレビのドラマには、ちょっと現実離れしていて、それほど深く心には残らないけれど、でもこういう世界があったら楽しそうだろうなと思わせて、一時間のドラマを観させる力があるようなドラマ。

そのようなライト(軽い)で楽しいイメージがありました。

私の好みはTBSっぽい作りでしたが、フジテレビにはトレンディドラマだけでなく、世にも奇妙な物語のようなドラマを作り出すところに、他局にはない斬新さや面白さがあると感じていました。

世にも奇妙な物語は、元々はフジテレビの深夜枠で放送されていた「奇妙な出来事」が原型らしいですが、各話にハッピーエンドではない不条理なオチを用意するセンスに驚き、かつワクワクしたものです。

時代の勢いと共に作り手側に柔軟性や実験性、しなやかさが感じられ、視聴者の一歩先を行くような新しさがプレゼンされていたように思う、と言ったらちょっと褒めすぎでしょうか。世にも奇妙な物語のことは、またいずれ書きたいと思います。

フジテレビがこのようにいろんなジャンルをわさわさと出してきている中で出会ったのが「NIGHT HEAD」(1992年)でした。

 

飯田譲治さんの作品です。超能力を持つ兄と弟の過酷な運命と心の中での葛藤、ロードムービーのように犯罪者や超能力者と遭遇して対決する。これらがあまりに面白かったのですっかりはまり込んでしまいました。

あらすじはWikipediaに詳細に書かれていますので、ぜひそちらを読んでいただければと思うのですが、いわゆるSFモノで、ざっくり言えば超能力という存在を見せることによって、人間とは?はたまた人類とは?と果てしなく自問自答していくような精神世界が提示されていて、そこを覗いてみたいような、でも怖くなるような、不可思議な感覚がありました。その大まかな流れに沿って一つ一つのエピソードが紡ぎ出されていましたが、どんなふうに進んでいくのか見えなくて、予定調和的でないことにドキドキしていました。

音楽(蓜島邦明さん)がこれまた内容と見事にリンクしていて、とってもサスペンスフル感満載。曲調には神秘性も感じるし、不安感もあるし、と居心地の悪さのような収まりのつかない感じがなんとも言えませんでした。

 

当時関西に住んでいた私はこのドラマを1994年に観ました。劇場版(映画)が公開される直前に放送されたと記憶しています。

つまり、このドラマはおそらく1992年に関東圏で放送され、後に劇場版が作られたことから地方での放送となったのではないかと思っているのですが…。それとも、まさか本放送は関東圏と同時期で、私は再放送を観たのでしょうかね。

ちょっと記憶に自信がありませんが(笑)、でも当時はこのズレが本気でショックでした^^;

ちなみにテレビスペシャル版は関西では放送されていなかったと思います。

劇場版にはテレビスペシャル版に出演した役の俳優が出てきましたが、これは劇場公開に合わせて出版されたムック本の内容で補うしかなく…。とまあ、不満は色々ありましたが、結果的にはその不満を帳消しできるような内容の面白さだったので、私は良しとすることにしたんですけどw 

出演していた豊川悦司さん、深浦加奈子さんや、六平直政さん、松重豊さんは知ってはいたけれど…の頃で、当時私が小劇場の舞台を熱心に観始めていたこともあり、じっくり演技を観ることができて堪能していました。皆さん当時は才気走った若者たちで、キレッキレで鋭くてシャープで。

 

そして、この作品を書いた飯田譲治さんは面白いなあ、と注目したのでした。

よく知られている話ですが、このNIGHT HEADの原案は、世にも奇妙な物語で放送された「常識酒場」「トラブルカフェ」です。今井雅之さんと東根作寿英さんが出演していました。

 

NIGHT HEADの後、飯田譲治さんの作品に出会ったのが「沙粧妙子の最後の事件」(1995年)でした。

連続猟奇事件を追う捜査一課の女性刑事・沙粧妙子(浅野温子)と、警視庁に研修に来た岩手県警の刑事・松岡(柳葉敏郎)。その事件に沙粧妙子は梶浦(升毅)という人物が関わっていることを感じ取る。梶浦は、沙粧妙子と池波(佐野史郎)がかつて在籍していた警視庁科学捜査研究所の極秘チームであるプロファイリングチームのリーダーだったが、快楽殺人に目覚め、行方をくらませていた…。

 

NIGHT HEADを観ていなければこのドラマを観ていなかったかもしれません。今までのフジテレビのイメージから、オシャレなドラマが始まるのかなと思っていたように思います。

おそらくNIGHT_HEADの飯田譲治さんの作品だったから興味を持ったのでしょう。

と、書いていますが、実はドラマの初回を観た時、全話観続けるかなあと曖昧だったことを覚えています。起こった一つの連続猟奇事件を刑事が追い続けて犯人を探し出す、よくある内容のドラマかもと思ったからです。

しかし、何者かに示唆されたらしい犯人が沙粧妙子の妹に近づいて妙子に迫ってくるがなぜか犯人の自殺で終わり、そしてまた新しい事件が起きる。ハッとするようなバラの花の描写、犯罪の異常性、なぜ沙粧妙子に向かうような犯罪が起きるのか、会話の随所に現れてくる梶浦とは?と緊張感のあるミステリアスな空気と深まる謎に、これは面白いかもしれないと、一話ごとに楽しみになっていきました。

 

このドラマには悪意が強調されていました。人間というものがいる限りこの世界から悪意が消滅することはあり得ない。そして悪意は目に見えないものとは限らない。(Wikipediaより)という文章が、ドラマの冒頭に毎回流れました。

最近、某所の動画で見つけたので久々に観たのですが(今は消されている模様)、初見時はストーリー展開を追うばかりで、再見して初めて人間の悪意というものに震撼させられた気がしました。

ドラマの冒頭の文章通り、人間が存在する限り、この悪意からは永遠に逃れられないのかもしれない、とどんよりとした気持ちになりました。

 

なぜ、そのように思ったのか。

それは、松岡刑事の恋人(飯島直子)が主な登場人物として出てきて、序盤からずっと松岡への癒やしとしての存在があったからでした。しょげたり、自信をなくす松岡に対して叱咤激励を送り、そのたびに真面目で正直な松岡は復活するのです。恋人だからというよりは、人間が人間として接するのだからその気持ちに応えたい、頑張ろうと思うのは当然なんですよね。それらの真摯な描写が積み重なっていった時、この「人間の善意の象徴」のような恋人が池波に殺されてしまい、おそらく私含めて視聴者は喪失感を味わったように思うのです。

親切に気安く接してくれた池波を善人だと松岡が気を許し、恋人を会わせたことを誰が咎めるでしょうか。

また、警視庁の捜査一課の若手刑事(川本淳市)が自分の失態により犯人が自殺したことで気に病み、名誉挽回とばかり極秘捜査をしていたところ、池波の毒牙(洗脳)にかかってしまうのも悪意の被害者の一人なのです。

 

この池波という存在にはしてやられました。妙子のプロファイリングチーム時代の同僚で、妙子が絶対的な信頼を寄せているという人物でした。共通の梶浦という仲間を失い(但し妙子には梶浦は恋人だった)、そういう経緯があったことから分かり合える友人のはずだった池波が、実は梶浦に洗脳されて犯罪者だったということは、本当に驚きました。

いや、驚いたと書きましたが、序盤あたりは他局で超話題だった「ずっとあなたがすきだった」や以前触れたことがあるNHKの大河ドラマ「翔ぶが如く」などの佐野史郎さんの怪演から来るイメージもあり、友人だと言っているけれど実は違うのでは?と穿って観ていたのです。

でも、その疑いの視線を向けられても、今回は主人公に親切な役なんですよと言いたげな表情や演技を見せられて、今回は違うのかと思い直していたら…第2の事件のラストで、え?!となり、そう来るかーとなったのでした^^;

これだけ皆から怪しいと最初から思われていた役者さんが、やっぱり怪しかったとなった場合、またか…と思うことはあっても、新鮮に驚くというケースはなかなかないのではないでしょうか。

全話観た後にもう一度最初から見直すと、佐野さんの視線の一つ一つに意味があり、その緻密な芝居に唸ってしまいます。

 

池波は妙子を愛していたけれど梶浦に敵わないというコンプレックスを終始持っており、また本来の気質なのか、それとも犯罪の研究をするうちに犯罪者の気持ちと同化してしまったのか、人間を犯罪効果の対象として、半ば実験材料のように扱うのですね。そのため、プロファイラーとして優秀だった妙子をこちら側(犯罪者側)へ来させようとする(梶浦の意思でもあるのか)、その辺りの妙子との攻防は本当にスリリングでした。

人間は誰しも弱い部分や病んだり、期せずして闇の部分を持ちながらこの混沌とした危うい現代社会を生きている。時折不意に放たれる「人間の悪意」に取り込まれないよう、厳しい現実と自分の心の奥底と天秤にかけながら踏ん張って生き抜くしかない、と作者は言っているような気がするんですよね。

当時買っていた週刊のTVガイド誌の短いコメント欄に、浅野温子さんが飯田譲治さんの書く世界を同世代として分かる(意訳です)というような意味で答えているのを読んだことがあります。多分、この自分の中で自分と対決していくしかない、という辺りの話ではないかと思うのですが。

猟奇的な犯罪であったり、主人公が病みがちだったり、オカルト的な雰囲気もあったドラマでしたが、ただ雰囲気で匂わせたり、過剰に盛り上げたり、風呂敷を広げて回収せずに終わるのではなく、真面目に緻密に作り上げられたドラマだったと私は思います。

 

その助けとなったのがまずは演出、次に役者陣、そして音楽だったのではないでしょうか。

演出は、河毛俊作さん、田島大輔さん、落合正幸さんが担当していました(テレビドラマデータベースより)が、私のイチオシは河毛さん担当回でした。緊密なシーンでは空気を少しも緩ませず、どんどん俳優を追い詰めていくような、張りつめた空気が絵の中で見えたのは凄いと思います。例えば10話の池波の変装姿。ご存知の方には、あれか!と思っていただけることでしょうw

このドラマで河毛さんを知ったように思っていましたが、何のことはない、私が今まで観たフジテレビのドラマを挙げた中の作品を演出されていたようです。ちゃんと観てたんですね^^

役者陣は、皆さん良かったんですけど、特に外せないのが妙子の上司役の蟹江敬三さん、その部下の金田明夫さんですね。金田さんは蟹江さんのナイスなアシストとして地味な役回りをされているのですが、表情やポツンと言うセリフに説得力がありました。例えば一番目の事件の犯人が自殺してバラの花束の中でプールに浮き上がるのを観た時の顔。池波が脱走する際、自分たちの部下である刑事が殺されているのを発見した時の嘆き。さすが新劇俳優だなと思います。

蟹江さんは安定の上手さですね。今ならパワハラと言われてしまう上司のキャラクターであるものの、彼なりにちゃんと部下を大事に思っている。単純だけど自分の仕事に対して信念がある刑事で、池波を撃った後の「俺は外さないんだよ」は名言ですね。痺れますw

ゴールデン枠だと視聴率優先を考えがちなキャスティングがされるはずですが、内容に見合った俳優が選ばれていたのではないでしょうか。NIGHT HEADに通ずるキャスティングっぽいものを感じました。蟹江さんの部下の刑事たち(渕野一生さん、中原潤さん)もセリフは少なくても、中堅刑事としてそこにいる感じがして良いなと思わせました。

そして音楽。岩代太郎さんが担当されていました。オープニング曲が妖しくてメロディーに深みがあってですね。果てしなく深く、どんどん分け入りたくなる感じ。人間の心理をイメージして作られたのだろうか、と思ったりします。複雑で込み入って迷路なようで。緊張感あるメロディーもあれば、切なく哀しく心が震えるまるで慟哭のようなメロディーもあります。どこか湿っぽいウエットな感じがありつつ、全体を通して聞くと洗練されているように受け取れます。サントラ盤が発売され、これは買わねばと持っている珠玉の一枚です。

 

放送一年後に「沙粧妙子 帰還の挨拶」という続編が放送されました。本編と同様に猟奇殺人事件が起こり、解決し、そのラストに梶浦、池波、妙子の3人で笑いながら語り合っている幻のシーンが出てきます。知能が高く、優秀だったこの3人の関係性でしかおそらくお互いを理解できないのだなと思わせるこのシーンは、とても幸せに見えるけれど、ある意味不幸にも見えます。突出し過ぎたがゆえの者たちの不幸というべきか。そしてその幻影を胸に抱きながら、妙子だけが生きていく。これもなかなかと厳しい現実だなと感じました。

飯田譲治さんの作品は、このドラマの後、「リング」(1995年、映画版ではなく2時間スペシャルドラマ版)、「ギフト」(1997年)や「あしたの、喜多善男」(2008年)(共にフジテレビ)を観ています。最近は私が少しご無沙汰気味ですが、飯田さんが今後どんな作品を書いていくのだろうか、と気になるお一人です。

 

ドラマは、昨今視聴率の低さが取り沙汰されて、現場は色々大変だろうなと感じるのですが、80〜90年代に感じた新しさ、楽しさ、そして面白かったドラマを今もぜひ観たいとワガママな視聴者は思うばかりです。頑張っていただきたいですね。