ずっと再放送を願っているドラマがたくさんある中で、最近やっと再放送に遭遇できました。

テレビ朝日が50周年を記念して、2009年に放送された佐々木譲原作の「警官の血」。三代にわたって警官となった3人の男性が主人公で、前編、中編、後編に分けられ2日連続で放送されました。

 

前編は初代・清二の話。

終戦後、復員後に結婚し、上野警察署の警官になった実直な性格の清二(江口洋介)は顔見知りの男娼が殺され、そして若い国鉄職員の死に遭遇する。二人はある警察官と接触しており、どうやら警察のスパイだったという噂があった。どちらも未解決事件になった。その後、妻の念願の駐在所勤務になった清二は、駐在所の隣の谷中の五重塔が大火になった時、目撃者に国鉄職員が接触していた警察官が近くにいることを教えられ、その見知った人間の後を追いかけていく。翌日国鉄の線路上で清二の遺体が発見され、火事に責任を感じての自殺と判断された。

 

中編は、二代目・民雄の話。

息子の民雄(吉岡秀隆)も警察官になった。父親の死は自殺ではないと思っている。民雄は警察学校を卒業する頃、公安から北大内で活動する赤軍派の潜入捜査をしろと命じられた。北大の学生になり活動を始めたところ、女友達(尾野真千子)から彼氏(田中圭)であるノンポリの学生の男が政治活動のために上京するので、危険から防いでやってほしいと頼まれた。民雄もその活動に誘われており、男が赤軍派の一斉検挙に巻き込まれないように逃してやろうとするが叶わず、男は逮捕された。

潜入捜査で神経をすり減らした民雄は不安神経症になってしまい、結婚した妻に暴力を振るうことも多かったが、父親に罪を咎められて更生した人間の話を聞いて、父親と同じ駐在になる夢を叶えた。

管轄内で、男から暴力を受けていた女を不憫に思う隣家の男性(奥田瑛二)が、女を救えない警察に業を煮やし男を殺す事件が起きた。民雄は証拠を操作して見逃してやることにした。

そんな中、民雄は他殺ではないかと思っていた父親の死の真相を知って愕然とする。子供を巻き込んだ覚醒剤中毒者の男が暴れる事件が起き、無理に逮捕しようとして撃たれて死ぬ。

 

後編は、三代目・和也の話。

DVだった父親を憎んでいた和也(伊藤英明)も警察官になり、マル暴として勤務する。それは人事の課長の依頼を受けてマル暴の先輩刑事(佐藤浩市)の内偵をするためだった。先輩刑事は極めて有能だったが暴力団との癒着が噂されていた。和也はその刑事の部下となり、一緒に捜査するうちに強引だが、独自の情報ルートで犯罪を暴く姿に魅力を感じるようになった。

だが、救急救命士の彼女を先輩刑事に奪われた和也は、仕事で暴力団との関わりを見つけ出し、先輩刑事を彼女と一緒に覚醒剤疑惑で逮捕させる。

数年後、和也は憎んでいた先輩刑事のような強引な捜査を行っていた。近づいたホステス(寺島しのぶ)にターゲットの人物の携帯を抜き取らせ、その情報から逮捕させた。和也は違法な捜査を行ったということで査問を受けることになった。

和也は小さい頃からの知り合いの写真館の主人に、先代が撮影していた五重塔の火災事件の映像を見せられ、祖父・清二の死の真相を知り、和也もよく知っている男に会いにいく。

 

さすがに再放送を観た後なのであらすじを書けますw

初見時は観終わった時、最近のドラマでは感じたことがないような深くて、重い余韻に数日間浸ることになり、その感情に自分でも驚いたことを覚えています。ここまで持っていかれてしまうものかなと。

いわゆるスペシャルドラマというものは、どのテレビ局も内容にも人選にも力を入れているので見応えはあるのですが、観終わった瞬間は面白いという感想を持っても、その気持ちが持続しないことの方が多かったりします。

ところが、この警官の血は今までのドラマとは違い、観た直後のその深い余韻が消えることなく、自分の心の中に長く住み続けていたような気がします。

テレ朝50周年記念と言われるだけはあるなと思いました。

 

なぜ私にとってこれほど深いものになっていたのか。

それは、単なるミステリーの犯人探しの話ではなく、三世代の男たちによる警官としての生き様に感銘を受けたからだと思います。

特に物語の導入を担った初代・清二の存在。彼は人が良く、優しく、真面目で正義感が強く、その性格を生かして警官になったような人物で、誰からも好かれる駐在でした。初代の存在感は大きく、だからこそ視聴者をこの物語に引き込んでいくための大事なきっかけであったと同時に、この好人物が殺されてしまうという悲劇性が際立ったのだと思います。

いつも超人で、ヒーロー然とした役が多い江口洋介さんが相手に簡単にやられてしまう描写は衝撃的でした。彼は自分のよく知る人物が罪を告白して慟哭した時、同じように泣いて受け止め、相手の罪を受け入れようとしました。しかし、相手は人間の心を失っており、清二に受け入れてもらいたいとは思っていませんでした。だから一瞬の隙をついて、清二を殺したのです。

このシーンは見ていて、とても辛いのですが(再放送で観ても)人の良さを全開で演じた江口さんだったからこそ、この役の結末を演じることができたのではないかと思うのです。清二の人間としての魅力が感じられる良い役で、本当に適役だと思いました。

 

父親と同じ警官の道に進んだ二代目・民雄は吉岡秀隆さんが演じました。

民雄が物語を占める割合が多く、その分、民雄役はかなり難しい役だったと思います。繊細さ、不安、暴力性、憎しみ…。いろんな感情を表現する役でした。

父親と同じような誰からも愛される駐在になりたいと思っていたのに、引き受けざるを得なかった任務で身も心もボロボロになってしまった不甲斐なさ、自分への苛立ち。吉岡さんは内面の葛藤を演じられるホント上手い役者さんですね。

 

最終的には立ち直り、父と同じような駐在になれたと思った民雄でしたが、なぜ最後無理に逮捕しようとして撃たれたのか。

父親の清二が殺されるきっかけになった五重塔の火事のフィルムを写真店の息子(和也時代にも出てきます)に見せられ、自分の恩人の一人である男が写っていることを知った民雄は、ずっと前から不審に思っていた父親の死亡を他殺だと確信し、その男を訪ねました。男は清二と対峙した時よりももっと狡猾になっていて、慌てるどころか民雄の罪を追求してきました。

民雄が潜入捜査時代、女友達に頼まれて学生運動から救おうとしたノンポリ学生は逮捕後活動家になり、彼女の元へ帰らなかった。女友達はその救いを民雄に求め、民雄も受け入れて男女の関係に発展してしまった。

しかし、民雄は任務だったため、その場からいなくなり、女友達は民雄を探しに探したけれど見つけられなかった。女友達は民雄との子供を産んでおり、どうしようもなくなり、無理心中をして死んでしまった…。

これが民雄の罪でした。民雄は父親を殺した男にその事実を聞かされ、知らなかったこととはいえ、自分が女友達と自分の子供を死に追いやったことに激しく動揺し、かつての不安神経症に苛まれた時に戻ってしまったというわけです。

民雄は、心の弱さを突かれたというべきでしょうか。息子の和也にこれは罰なのだ、という言葉を残して死んでいきます。警官として生きたけれど、不本意な人生だっただろう民雄を可哀想に思います。


祖父が善、父が弱なのだとしたら、孫の和也には清濁合わせ呑む強さがありました。

和也は祖父を殺した犯人の男に会いにいき、問いただすと犯行を認めた。

犯人は清二と同期で、公安の刑事だった早瀬(椎名桔平)でした。

早瀬は過酷なレイテ島戦の生き残り。当時は現地での情報収集のために上官から命じられ、原住民の少年をスパイとして利用するうちに少年と男色関係になった。しかし、早瀬は少年は二重スパイだったことを知り、裏切られたという思いから少年を殺した。その後、生還して刑事になった早瀬は上野公園での男娼や国鉄職員の男をスパイとして使いながら、男色関係も行っていたが、諍いのもとに2人を殺した。

つまり早瀬は戦争のせいでこうなった、俺をこのようにした人間たちは俺に謝っていないと叫ぶのですが、和也は戦争は戦争で、祖父への殺人は違うだろうと糾弾するのです。

仮に戦争がきっかけであっても、人間の心をなくしたからといって、自分だけの理由で次々と人に手をかけていいわけはなく、ここでは早瀬の自分勝手さが際立っていました。清二と対峙した時、民雄と向き合った時よりも早瀬にふてぶてしさとモンスター度が強まっていたのは、罪から逃げ通せたという自信があったからでしょう。

和也は早瀬に今度は民雄のもう一つの罪で揺さぶられます。民雄がDV事件の証拠操作を行った事実を告げられたのです。

しかし、三代目は怯まない。警察の幹部になっている早瀬の息子のところへ出向き、自分の違法な捜査で進退がかかっていることをチャラにして欲しいと願い出るのです。当時の民雄が所属した署の署長が証拠操作に感づいていながら、見逃していたことを交換条件として。その署長は現在の副総監。キャリアに傷をつけられないということで、和也は不問にされます。

この辺りのキャリア間の駆け引きは、組織ならではの話であり、ドラマ相棒の世界観でもあるなと思いました。

 

このドラマの実質上の主人公は和也かもしれません。

自分の中には善人の清二、弱かったけれど正直に生きようとした民雄の血が流れていて、それは抗えない運命の警官の血でもあると自覚しているんですね。

だから早瀬の息子に、あんたの父親は殺人犯だ、俺は父のことを恥じないと告げた時、それは逆に早瀬の息子が自分の父親への疑惑(でも薄々感づいていたらしい)を深めることになり、またそんな父親を尊敬できるはずもなく、彼も親からの警官の血が流れているはずなのにとても対照的なシーンとして受け取れました。

このドラマはミステリーの体を取っていますが、早くに犯人が明かされています。

冒頭から和也のモノローグで、早瀬をピラニアだと言い放つのです。そしてドラマの最後には、現場に復帰した和也は部下から戻ってこられて良かったと言うシーンで、ピラニアに勝ったんだと呟きました。

初見時は、ピラニアという言葉をスルーしてしまっていましたが、今回の再放送で気づきました。被害者遺族として、のうのうと罪を償わずに生きてきた人間に対して使ったピラニアという言葉はまさにその通りだなと。今回強く印象に残りました。

そして和也の強さには救われる思いがしました。

 

演出は、鶴橋康夫さんでした。

これまでに演出された何作品かをドラマで観ていますが、役者の表情をリアルに引き出すところが上手い方だなという印象です。内容の深さに感動したと書きましたが、役者の演技に感動した部分も大きかったと思っています。

スペシャルドラマなので他のドラマで主役をはるような役者さんが多く出ていましたが、皆、役者として自分を良く見せようという、ある意味自意識過剰なところが全く感じられず、本当に登場人物として、その役を生きている演技だと感じました。

改めて見返しても、その感想は同じでした。これらの演技は演出の力によるものではないでしょうか。作品のために引き出した感情の結晶で作り上げたドラマだったと思います。

中でも、和也を演じた伊藤英明さんの怒りと凄み、写真館の息子を演じた高橋克典さんの地域に根ざして生きる小市民感は、とても良かったと言いたいです。

 

あと、音楽もこのドラマでは触れたい存在です。仲西匡さんが担当していて、それはそれは琴線に触れるような、叙情的で悲しみも暗闇も表現しているようなメロディーでした。三世代の男たちに血が受け継がれたように、このメロディーも世代を超えて静かに、淡々と伝わっていっているような、川の流れにも似た感じでしょうか。そんなイメージがあります。個人的には忘れたくないと思わせたメロディーです。

なんとなくですが、楽器は二胡を使っているような気がしました。弦楽器であるのは間違いないと思います。サントラが出ないかなと当時思っていましたが、結局出ませんでした。残念です。

 

最後に原作について。

当時ネットで知った情報としては、アメリカの警察小説でスチュアート・ウッズの「警察署長」に影響を受けているらしい、という話でした。佐々木譲さんのこの原作は後に読みましたが、「警察署長」は本を買ったものの、まだ積読状態です。

ちなみに「警察署長」はアメリカでドラマ化され、1985年にNHKで放送されたそうです。このドラマのファンの方は結構多いみたいですね。検索するとブログに行き当たったりします。AmazonでDVDが発売されており、警官の血ファンとしてこれも観なければとすでに購入しております^^;
今回、警官の血の再放送にめでたく遭遇できたので、警察署長の原作とDVDにも取り掛かりたいと思うところです。