春が来た、暖かい風と共に桜の花が舞う、とても広いこの丘の中央に咲く桜、そこは私が初めて恋をした人と出会い戦場に散った彼の形見だ。ここにいると彼との色々なことを思い出す、そのたびに前に踏み出すことができないでいる、彼はもう此処にはいない、遠い遠いどこかへ飛んでいってしまった。私の中の時計の針はずっと止まっている、あの日、彼が戦闘機に乗り、特攻したあの日から私の中の時計は止まってしまった、彼はもういない分かっている、分かってるのにどうしても記憶から消せないでいる、あの頃の私は彼がいたから私でいれた、でも彼がいない今の私は感情の無い人形だ、私はいまだに彼の帰りを待っている、もう居ないと分かってるのにどこかで期待をしてしまっている、帰ってくるわけでも無いのに、そんな思いを私はよく歌として作っている、作った歌はすぐに捨てている、見ると自分が虚しくなるだけだから、時間は昼頃、一度家に帰ろうと丘を降りていく、家に着き中に入った、昔は聞こえたあの一言「おかえり」と言う言葉、それは今もう聞けないそう思うとまた私は一人うずくまり泣いていた、少ししたらなんとか落ち着くことができた、今日は休みだが明日からはいつも通り学校に行かなければいけない、そのための準備をして夕飯を作り一人で食べる「いつも通りの生活だ」そのはずなのになぜ私の頬に涙が伝ってくるのだろうか、食べ終わり食器を洗いお風呂に入り寝た、次の日暖かい日差しに照らされ目を覚ました、学校に向かう支度をして家を出ようとした時私はふと忘れ物を思い出した、それは彼がいつもあの桜の木の下で読んでいた本だ、その本をカバンに入れて私は学校に向かう、いつもの通学路を進み学校へ着いた憂鬱だ、なぜ知りたくも無い、興味のない勉強をしないといけないのか窓の外に広がる空「彼は今どこにいるのだろうか」そんなことを考えていると一羽の鳥が飛んでいた、その鳥はずっと窓の外をグルグルと飛んでいた、まるで私達を見ているかのように飛んでいる、その後気が済んだかのように遠くへ飛んでいった。
そして夕方になり下校の時間私は校舎を出ていつものあの丘へ向かった、桜の木の下で彼が読んでいた本を開く、何度も何度も読み返しているのにやはりわからない、私にはまだこの本は早いのだろうかそんなことを考えているとだんだんと眠くなってきた、目が覚めると私の隣に彼が横になっていた、私は彼に触れようと手を伸ばした、すると私の手は彼を通り抜け同時に彼は消えていってしまった、小さな声で「行かないで」と言ったところで私は目を覚ました、気づけば日が暮れ始め風が冷たくなってきた、明日も学校があるので私は家に帰ることにした。
家に入りいつも通りご飯を食べてお風呂に入り明日の支度をして眠りにつく、布団の中で私は天井を見ながら彼とのさまざまな記憶を思い出していた、忘れたくても忘れることができない、やはり彼に未練が残っているのだろうなかなか眠りにつけず襖を開けて夜空を眺めていた、ふと横を見ると隣に彼が座っていた話しかけることができない、また今日見た夢の続きなのではないのかと、すると彼が突然口を開きこう私に言った、
「なぜ前に進まないんだ?」と私は答えることができなかった、すると彼は続けてこう言った「もし君が大きな困難に遭っているのなら、桜が咲くあの丘にくれば自ずとわかると思うよ」そう言った後突然桜の花びらが舞った目を開けると彼はいなくなっていた、彼が言っていたあの言葉がもし本当なら、気づけば私は彼の言ったところへ向かっていた桜の木の下につくと彼がいた「来たんだね」そう言われ私も恐る恐る口を開く
「いったいあなたは誰なのですか?」すると彼は「君の記憶の中にいる彼に言われてね、僕が死んだ後もし君が苦しんでいたらそばにいてあげてほしいって言われたんだ」私はどうゆうことかわからなかった、すると目の前の人はこんなことを言ってきた「彼はこう言ってたよ、僕は君が僕がいなくなったせいで苦しんでほしくはないし立ち止まらないでほしいってね、彼は僕との出会いのせいで君の人生を無駄にしてほしくないらしい」
そう言われると彼が昔言ってたことを思い出す、人生は一度きり二度目なんてないだからそのたった一度の人生を無駄にしないでほしい、と言われたことがある、あの頃は突然言われたこともあり意味があまり分からなかった、でも今ならわかるあの言葉は彼なりの伝え方なのだと彼はあの頃から自分は特攻兵になると分かっていたのだと思う、そう思うと自然と涙が出てくるでも今までの涙とは違う感情の乗った涙だった、気づけば私は布団の中で目をしました、夢だとすぐに分かったが悲しくなかっただって彼が教えてくれたのだから、どんなに月日が流れ同じ春を迎えてももう挫けない、だってあの桜の木の下であった彼との思い出があるのだから独りでも私ができることそれは彼が昔言ってくれた言葉、「君の声は世界を幸せで包める」と私は今までの彼との思い出そしてこれからできる思い出を歌にして世に放とうもしこの世界に私と同じような苦しみに遭っている人を少しでも救えるように、歌い続けようと、風に乗せ君に届くよう桜の咲く丘で決心するのだった。