物的庇護罪説(盗品関与罪について) (井田良「刑法理論の現代的展開 各論」より) | きっと合格してやるっ!!司法試験のブログ

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刑法各論 盗品関与罪№1
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 今、盗品等罪の保護法益論・罪質論では、追求権説+本犯助長・事後共犯とする見解が通説と言えるのでしょう。

 つまり、保護法益としては、あくまで「追求権」(財産犯被害者の被害財物に対する回復請求権)であるとしつつ(追求権説)、本犯助長的・事後共犯的性・利益関与的格故に、財産犯本犯より、重い処罰規定がある、とする見解ですね(西田刑法各論[6版]270頁、高橋各論[2版]414頁)。

これに対するもので有名なのが井田先生の物的庇護説ですね。

ただ、井田先生の論点講義シリーズ刑法各論[2版]では、次のように書かれていているだけで、どうも、物的庇護説であることが明確ではありません。

そこで、学説においては、財産犯的性格にあわせて、犯人庇護罪的性格もあわせ考慮しようとする見解(総合説)がかなり有力に主張されている(158頁)
盗品等に関する罪は、ふつうの財産犯と同じく、特定の被害者の具体的な財産の保護を目指した犯罪類型として理解されるのが普通である。しかし、本罪は、同時に、犯人庇護罪的性格をも併せ持っている(163頁)。

 そこで、今の受験生は、あまり目にしないでしょうから、井田先生が物的庇護説を打ち出した刑法理論の現代的展開各論を見てみましょう。
 まず、ドイツにおける沿革から、紹介します。

 贓物罪は、中世以降のヨーロッパについてみると、19世紀に至るまで、財産犯ではなく、共犯の一態様である事後従犯(犯行後に犯罪者を援助すること)のなかに含められ、犯人蔵匿や証拠隠滅などの犯人庇護行為とともに処罰された。
 19世紀になって独立の犯罪(=共犯の一態様ではなく)としての理解が一般化し、そこから三つの犯罪類型が形成された。 すなわち、
①犯人蔵匿や証拠隠滅の行為などにより犯人を援助する人的庇護罪
②本犯者が犯罪から得た(財産的)利益を確保・増大させる物的庇護罪、さらに
③本犯者のためでなく、自己(または第三者)の利益のために贓物を間接的に領得する(狭義の)贓物罪である。(256頁)
(略)わが刑法は、②と③にあたる行為態様を一括して財産犯として位置づけるとともに、公益に対する罪としての人的庇護罪(すなわち犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪)との関連を断ち切っている。(略)物的庇護の側面をあえて切り捨てて(無理に)財産犯の型にはめようとしたことが本罪の性格をかえって曖昧なものにしたとは言えないだろうか。
 たとえば、わが国では256条2項により処罰される「運搬」や「保管」の行為は、ドイツ刑法の贓物罪の規定(259条)によっては捕捉されず、公益に対する罪で(も)ある物的庇護罪としてのみ処罰される行為なのである。
 要するに、わが刑法が、ドイツ刑法のように物的庇護に対し独立の規定を設けることをせず、贓物罪のみを規定したために、本罪は財産犯として把握されながらも、ときおり物的庇護の側面が表面に出でざるを得ず、そのことが本罪の罪質を曖昧なものにしていると考えられるのである

※贓物=盗品等と同じ。盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された財物[有斐閣 法律用語辞典第3版]

 このようなにドイツの整理をみます。なお、ドイツでは、「庇護罪と蔵匿罪」という章第で規定されています。
 そこから、「わが刑法の規定の解釈において物的庇護の側面を切り捨てることができないとするならば、財産犯的側面と物的庇護の側面とを曖昧な形で併存させるべきではない。盗品等に関する罪の処罰根拠は、むしろ物的庇護の側面を正当に評価し、これを中心に据えることによって説明されるべきであるように思われる。すなわち、」ときて、つぎのようにして物的庇護説を説きます。

 本罪の処罰規定は、本犯者への犯行後の協力・援助行為を禁止して本犯者を「孤立」させることにより、財産犯への誘因をのぞき、ひいては盗品処理ないし売却等のための非合法的な仕組み(例えばブラックマーケット)の形成を阻止するためのもの(本犯の被害者の保護は規制の反射的効果にすぎない)と解釈するのである。
 本罪は、本犯たる財産領得罪(及びその共犯)とは保護法益が異なり、「財産領得罪を禁止する刑法規範の実効性」という(より観念化・抽象化された)法益に対する罪として把握される。
 総則の共犯規定(60条以下)は、犯行前及び犯行時における犯罪実行への関与行為をかなり包括的に処罰するための規定であるが、犯行後における援助・協力行為も限定された形であるものの、犯人蔵匿罪(103条)や証拠隠滅罪(104条)などの独立した犯罪として処罰される。
 しかし、財産領得罪に関しては、これらの人的庇護の処罰規定のみでは十分ではなく、被害物件の保管や処分等に関する援助・協力行為まで強く禁止することが必要だと考えられる。
 財産領得罪(特に窃盗罪)は大量の犯される犯罪であり、また利欲的動機に基づく誘因の作用が強いので、一般予防的観点から本犯を誘発・助長する行為を禁止する必要性が特に高いからである。
 財産的法益に及ぼす影響が間接的であるにもかかわらず重い刑が法定されている(本罪の所為は横領に近いが、横領の罪に対するよりも重い刑が法定されている)ことも、無償譲り受け(256条1項)とそれ以外の行為態様(同2項)とで法定刑に区別があり、二項の罪対しては罰金が(必要的に)併科されることも、本罪の本質を財産犯ととらえる限り説明が困難であろう(刑法理論の現代的展開各論258頁)



 物的庇護罪説には対しては、盗品関与罪は財産犯であるから、このような位置づけは無理い、とか、法益が抽象的すぎる等の批判で、正面から支持している方はいないようですが、別に論じますように、十分あり得る見解でいいと思んですけどね~。これは別に述べます。
盗品関与罪 物的庇護説に対する批判(山口厚 問題探求刑法各論より)




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