夜に啼く鶯 -38ページ目

夜に啼く鶯

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蘇我入鹿と言えば、随分昔の事なんだけど、入鹿池の近くを車で走ってたら路肩をとぼとぼと肩を落として歩いている鵜とすれ違ったんだ。まあ、鵜だから落とすほどの肩がある訳でもないけど。

何となく気になっちゃってUターンして声をかけたんだけど口ごもってブツブツ言うんだけれど何言ってるのかわかんない。
らちがあかないから「飲みに行くか?」って誘ったら無言ながらもばささって助手席に乗ってきたから近くにあった蕎麦屋に入って僕は日本酒、鵜はかまぼことヒレ酒頼んでちびちびと飲んでた。
しばらく経った頃に鵜がぽつぽつと話し出したんだ。

何でも彼は幼い頃に茨城県の海を臨む絶壁で気持ちよく日光浴をしていたところを突然棒のようなもので足を掴まれたと思ったら真っ暗な箱の中に入れられて海のない岐阜にまでつれてこられた上に(海鵜が海なし県って考えられへんわ!って吐き捨てるように声を荒げてた)羽根を切られ、首には縄を巻かれ、人間様のために鮎を捕るはめになったらしいんだ。

でも彼はそれを受け入れたんだ。いくら天気が良かったからといって、崖の上で限度を越えてぼんやりとしすぎていた自分の落ち度は否定できないって理由で。むしろどの鵜よりも鮎を捕ってやろうと彼は心に誓ったし、実際に彼はどの鵜よりも鮎を捕った。僕は彼のそんな考え方に尊敬の念を覚えさえしたよ。

ただ彼が許せなかったのは自由に飛び回る地元の川鵜の存在だったんだ。せっせと働く海鵜を見て川鵜たちはひそひそと、けれど海鵜の耳にしっかりと届くように囁いた。
「おやおや、こんな海もないところにいらっしゃるは誇り高き海鵜さんじゃないですか?」
「いやいやいや、大海原で活躍される海鵜さんがこんなところにいるわけが・・・あれっ!?」
「羽根を切られていらっしゃる?」
「首に縄を巻かれていらっしゃる?」
「人間様に鮎を捕ってさしあげてる?」
「鵜飼いの鵜みてえじゃね~か!?」
「ぎゃははははは」
ばささささ

そんなことが続いて彼は我慢が出来なくなってある日を境に鮎だけは捕るまいと心に誓ってフナとウグイしか捕らないようになったんだ。 そして一ヵ月後に彼は首になって首の縄は解かれた。

彼は死に場所を求めて入鹿池にやってきた。入水自殺にうってつけの湖があると風の噂に聞いていたんだね。 一歩、また一歩と彼は黄泉へと続く湖に歩を進めた。
短い足はすぐに湖底に届かなくなり水が胸の辺りまでせまってくる。
いよいよ・・・ってところで泳ぐのめっちゃ得意な事に気付いたんだ。
海鵜だからね。
死ねない事に絶望してとぼとぼ歩いていたところに僕が通りかかった。

それが僕の入鹿池の思い出。