むかしむかし、山間に住むニク族と海沿いに住むウオ族はいつもいつも喧嘩していました。
ニク族の人たちは海にもぐって無垢なサカナをとがった棒で突き刺してむしゃむしゃと食べてしまうウオ族たちを雨後の筍よりも野蛮だ、と考えていました。
ウオ族の人たちは木陰に隠れて無垢なムジナをとがった棒で突き刺してむしゃむしゃと食べてしまうニク族たちを雨が降っても固まらない砂浜よりも野蛮だ、と考えていました。
ニク族の男たちは新月の夜になると山を降りて寝静まったウオ族の村に忍び込んで彼らの大切なサカナを突き刺すとがった棒を残らずぽきりぽきりと折ってしまいました。 ニク族の人たちは新月の夜にウオ族の人たちが深く深く眠り込んでしまう事を知っていたのです。
ニク族の男たちはすべてのとがった棒を折ってしまうと、静かに、深く眠っているウオ族の娘たちにそっと唇をかさねあわせ、山にかえります。
ニク族の男たちは無垢なサカナをとがった棒で突き刺す野蛮なウオ族のことは嫌いでしたが太陽の光をいっぱいに浴びて小麦色の肌と引き締まった身体を持ったウオ族の娘たちに恋をしていたのです。
ウオ族の男たちは満月の夜になると山を登り寝静まったニク族の村に忍び込んで彼らの大切なムジナを突き刺すとがった棒を残らずぽきりぽきりと折ってしまいました。 ウオ族の人たちは満月の夜にニク族の人たちが深く深く眠り込んでしまう事を知っていたのです。
ウオ族の男たちはすべてのとがった棒を折ってしまうと、静かに、深く眠っているニク族の娘たちにそっと唇をかさねあわせ、海にかえります。
ウオ族の男たちは無垢なムジナをとがった棒で突き刺す野蛮なニク族のことは嫌いでしたが闇に潜み透きとおるような色白の肌とふくよかな身体を持ったニク族の娘たちに恋をしていたのです。
新月の夜が明けきらないうちにウオ族の人たちは深い深い眠りから戻ってきます。
新月の夜明けはウオ族の人たちにとって大切な一日なのです。たくさんの海のいきものたちが契りをかわすために深い深い海から浅い海にやってくるからです。
オスガニとメスガニは十本の腕をひしとからませ二度とはなれないと抱き合います。サカナたちは岩のすきまでオスははじめて手を繋ぐように遠慮がちにむなびれでメスのむなびれにそっと触れ、やがてえらぶたとえらぶたをひしとかさねあわせ二人の確かな愛をうたいあげます。
すこしの優しい嘘もあります。一年魚のオスが「三年目の浮気は許してくれよ」と美しいうたをうたい一年魚のメスが「三年目なら許すわ」と哀しいうたをかえすこともあります。
一年で一生を終える彼らに三年目の浮気はなく、二年目の平穏もまたないのです。
新月の夜明けの浅瀬には恋に盲目になった海のいきものたちがあふれとがった棒でいとも簡単に突き刺せるのです。
ウオ族の男たちは眠りから戻るとわれさきにと恋に落ちた海のいきものたちを突き刺そうととがった棒をさがしますがニク族の男たちにぽきりぽきりと残らず折られていることにきがつき怒りにふるえ、ウオ族の女たちは眠りから戻ると唇に残る記憶と頬を伝うニク族の男たちが残していった涙の跡にきがつきこころふるわせるのです。
満月の夜が明けきらないうちにニク族の人たちは深い深い眠りから戻ってきます。
満月の夜明けはニク族の人たちにとって大切な一日なのです。たくさんの山のいきものたちが契りをかわすために深い深い森の奥から視界のひらけたふもとに降りてくるからです。
雄狐と雌狐は九本の尾をひしと絡ませ二度とはなれないと抱き合います。ムジナたちは楡の木の根元で体を寄り添わせ眠った風を装い小声で二人の確かな愛をささやきあいます。
すこしの優しい嘘もあります。オスのムジナが「同じ穴で永遠に」と優しくささやき、メスのムジナが「墓穴となるまで」とささやきかえすこともあります。
同じ穴のムジナとはいえ彼がタヌキであり彼女がアナグマである以上彼らは永遠に結ばれることはなく、今宵結ばれることもまたないのです。
満月の夜明けの山のふもとには恋に盲目になった山のいきものたちがあふれとがった棒でいとも簡単に突き刺せるのです。
ニク族の男たちは眠りから戻るとわれさきにと恋に落ちた山のいきものたちを突き刺そうととがった棒をさがしますがウオ族の男たちにぽきりぽきりと残らず折られていることにきがつき怒りにふるえ、ニク族の女たちは眠りから戻ると唇に残る記憶と頬を伝うウオ族の男たちが残していった涙の跡にきがつきこころふるわせるのです。