臭いけれど美味い、慣れると病みつきになる、と噂のくさやといふもの。
以前から食べてみたいな、とは思っていたもののそこらのスーパーでは見かけないし、かといってネットで取り寄せるまでの興味はなくて食べず終いでいたところ、焼津の土産物売り場で見かけ買ってみた。
幸か不幸か真空パックされていてその場で臭いはわからない。
店員の女性に「くさや売ってるの初めて見ました」と話しかけると、
「いやあ~、ウチも置きだしたのは今年に入ってからなんですよ。干物の街ってことで試験的に入れてみたんです」とのこと。
屋内で焼いても大丈夫ですか?と訊ねると、
「わーたしもたーべた事ないからわからんのですわぁ~、ふふふふふふふ」と素敵な笑顔で答えてくれた。
ふふふふ。マジか。
家で焼くのを躊躇して幾日か経った頃、親しい友人間で食事会があってここぞばかりと持参した。
十人くらいが集まって、皆知ってはいるけれど食べたことがある者はゼロ。
一通り食事が終わった頃合いに開封してまずは香りを聞いてみる。
・・・・臭い。
が、黙して皆に聞香を勧める。
猫のおしっこ、下水、昔の堀川(愛知県を流れ、かつて「死せる川」と呼ばれた水質汚濁の象徴的河川)のにおい、と感想は様々。
僕はテトラポッドの端っこのにおいを連想した。けれどその場に崩れ落ちるほど強烈なものでもない。
念のため屋外で焼いて暫し待つと隙間風に乗って臭いが侵入してくる。
始めはピアニッシシモ。そこから焼きが進むにつれラベルのボレロ的にクレッシェンドが連続する。こうでなくっちゃ。
フォルティッシッシモに焼きあがったくさやを楽団員が囲む。コンダクターの責務として僕が最初に二本のタクト(割箸だ)を突き刺す。が、タイトでソリッドな楽曲にタクトは刺さらず、撥ねかえされる。タクトを投げ捨て両の手で半身を毟り、頬張る。
「くせえ・・・」
畳み掛ける臭いをやり過ごし噛み締める。
「うめえ・・・」
『美味い』ではなく『旨い』。
ギュッ、ギュッと噛むほどに旨みが溢れる。
「でもくせえ・・・」
鼻腔から異臭が抜けていく。
大概の人が知っていて、大概の人が食べた事がないものの代表のツートップ。あと一つはあなたの心の中にある。
かも。
