顔が良くて、出来がいいことが、
そんなに自信を持たせるのか。
二階堂は、授業こそそれはそれはよくわかるようにおしえてくれたが、
チャイムがなったとたん、
わたしたちを鼻で笑った。
「どうせあれだろ?
男と別れたとかで集中力をなくしたんだろ」
「すごーい。由美ちゃん当てられちゃったね」
呼び出された生物室で、
私は問題を解かされていた。
二階堂の顔のよさに惚れ込んでいるさとみが、
用もないのについてきて黄色い声をたてる。
「別に、別れたのが理由じゃありません。
欲求不満で勉強が手につかないんです」
私は、若くて顔がよくて頭がよくても、
上からものをいう人間が好きではない。
越えられない年齢による経験なんかをたてに、
高校生のかんがえることなんてしょせん、
というスタンスの人間はとくに。
「すぐヤる相手が見つけられないなんて、
お気の毒に。
せめて勉強できないと、
みるかげもなくなるから、
とりあえずそれを早く解いてくれるかな」
嫌味を止めさせたくて、セックスの方向へ話題をやったが、
効き目はなかったらしい。
憎たらしい。
普段、下ネタしかいわないさとみが、
顔をあかめているのも気にくわなかった。
そんな恥じらいもむなしく、
関係ない人は帰りなさいと、一蹴されてしまったが。
「そういえば、浅井先生がバレンタインデーのお返し持ってきてたぞ」
「え」
愛しの浅井先生。
バレンタインデーは、チョコレートケーキをおくった。
「奥さんが選んだ愛マカロンだって」
けっ。
にやにやと笑うその顔を、
見たくないので真剣に問題を解いた。
生物は、実のところ嫌いではないのだ。
「はい。お疲れさま」
二階堂は、赤ペンのキャップをきゅっとしめると、
答案を私に返した。
「どうもありがとうございました」
慇懃無礼な態度に、
少々嫌味な笑いをみせて、
そんな二階堂を横目にわたしは早々帰り支度をした。
「吉田」
振り替えると、二階堂が小さな青い紙袋を持っていた。
「持ち帰りなさい」
「は?」
「ホワイトデー。
他のやつには言わないこと」
二階堂は首をすくめるようにいれたばかりのコーヒーをすする。
驚いた。
確かに、さとみに付き合って、バレンタインデーにここへきた。
確かに、チョコも渡した。
だけどあれは。
「マーブルチョコ二粒だよ?」
「いいから。早くしまう」
めんどくさそうに、しまえ、と手でうながす。
「いや、もらうけど…ありがとうございますだけど…
だけど、あれだけしか渡さなかったのに…」
敬語で話すことも忘れて、動揺してしまった。
青い紙袋には、有名な名前が金色の文字でかかれていた。
割にあっていないと思う。
「甘いもの食べると、
恋をしたのと似た興奮物質が頭に出るから」
紙袋から、二階堂に視線を移すと、
意外にも、
こちらをうかがうような、
いやちがう、
心配するような目でこちらをみていた。
少し、かんじていた。
顧問をつとめる水泳部の、部員を呼び出す放送をやたらいれて、
志望校のレベルをあげた私や同じような子には、
成績が少しでも下がると個別に課題を出した。
この人、もしかしてすごく熱い人なんじゃないのか。
「先生」
「なんだよ」
「彼女、プレゼントを選ぶ趣味、いいですね」
そういうと、途端にポーカーフェイスは崩れ、
漫画のようにコーヒーを吹いた。
「きたなー」
「吉田。
大人を子どもの目でみるのを止めたら、もっと世界はやわらかくなるぞ」
「なによ熱血ってかんじ」
ひらりと軽いスカートをひるがえし、かばんをつかむと、
背中に二階堂の声が振りかけられた。
「お前、落ち込んだら相談しなさい!
誰でもいいから!
失恋や進学の不安をあまくみるなよ!
おい、ちゃんと聞けよ」
「せんせい、ありがとうございまーす」
腕を伸ばして紙袋を大きく振ってそういった。
前を向いたままいったのは、
私がまだ子どもで、
こぼれた涙を見られるのが恥ずかしかったからだった。
そんなに自信を持たせるのか。
二階堂は、授業こそそれはそれはよくわかるようにおしえてくれたが、
チャイムがなったとたん、
わたしたちを鼻で笑った。
「どうせあれだろ?
男と別れたとかで集中力をなくしたんだろ」
「すごーい。由美ちゃん当てられちゃったね」
呼び出された生物室で、
私は問題を解かされていた。
二階堂の顔のよさに惚れ込んでいるさとみが、
用もないのについてきて黄色い声をたてる。
「別に、別れたのが理由じゃありません。
欲求不満で勉強が手につかないんです」
私は、若くて顔がよくて頭がよくても、
上からものをいう人間が好きではない。
越えられない年齢による経験なんかをたてに、
高校生のかんがえることなんてしょせん、
というスタンスの人間はとくに。
「すぐヤる相手が見つけられないなんて、
お気の毒に。
せめて勉強できないと、
みるかげもなくなるから、
とりあえずそれを早く解いてくれるかな」
嫌味を止めさせたくて、セックスの方向へ話題をやったが、
効き目はなかったらしい。
憎たらしい。
普段、下ネタしかいわないさとみが、
顔をあかめているのも気にくわなかった。
そんな恥じらいもむなしく、
関係ない人は帰りなさいと、一蹴されてしまったが。
「そういえば、浅井先生がバレンタインデーのお返し持ってきてたぞ」
「え」
愛しの浅井先生。
バレンタインデーは、チョコレートケーキをおくった。
「奥さんが選んだ愛マカロンだって」
けっ。
にやにやと笑うその顔を、
見たくないので真剣に問題を解いた。
生物は、実のところ嫌いではないのだ。
「はい。お疲れさま」
二階堂は、赤ペンのキャップをきゅっとしめると、
答案を私に返した。
「どうもありがとうございました」
慇懃無礼な態度に、
少々嫌味な笑いをみせて、
そんな二階堂を横目にわたしは早々帰り支度をした。
「吉田」
振り替えると、二階堂が小さな青い紙袋を持っていた。
「持ち帰りなさい」
「は?」
「ホワイトデー。
他のやつには言わないこと」
二階堂は首をすくめるようにいれたばかりのコーヒーをすする。
驚いた。
確かに、さとみに付き合って、バレンタインデーにここへきた。
確かに、チョコも渡した。
だけどあれは。
「マーブルチョコ二粒だよ?」
「いいから。早くしまう」
めんどくさそうに、しまえ、と手でうながす。
「いや、もらうけど…ありがとうございますだけど…
だけど、あれだけしか渡さなかったのに…」
敬語で話すことも忘れて、動揺してしまった。
青い紙袋には、有名な名前が金色の文字でかかれていた。
割にあっていないと思う。
「甘いもの食べると、
恋をしたのと似た興奮物質が頭に出るから」
紙袋から、二階堂に視線を移すと、
意外にも、
こちらをうかがうような、
いやちがう、
心配するような目でこちらをみていた。
少し、かんじていた。
顧問をつとめる水泳部の、部員を呼び出す放送をやたらいれて、
志望校のレベルをあげた私や同じような子には、
成績が少しでも下がると個別に課題を出した。
この人、もしかしてすごく熱い人なんじゃないのか。
「先生」
「なんだよ」
「彼女、プレゼントを選ぶ趣味、いいですね」
そういうと、途端にポーカーフェイスは崩れ、
漫画のようにコーヒーを吹いた。
「きたなー」
「吉田。
大人を子どもの目でみるのを止めたら、もっと世界はやわらかくなるぞ」
「なによ熱血ってかんじ」
ひらりと軽いスカートをひるがえし、かばんをつかむと、
背中に二階堂の声が振りかけられた。
「お前、落ち込んだら相談しなさい!
誰でもいいから!
失恋や進学の不安をあまくみるなよ!
おい、ちゃんと聞けよ」
「せんせい、ありがとうございまーす」
腕を伸ばして紙袋を大きく振ってそういった。
前を向いたままいったのは、
私がまだ子どもで、
こぼれた涙を見られるのが恥ずかしかったからだった。