サエはあまり、真面目な話をしない。

俺や塩屋をからかって、自分のことをあんまり言わない。


それなのに。

なぜだか今日は違った。

本当ならうれしいところだけど、それも違った。


事の起こりは、ひっくりかえったサエのアクセサリーボックスだった。



「これは、お母さんにもらった。誕生日に」


手にはプラスチックでできた輪がいくつもつながったネックレスがあった。

ちいさなころから集めているという時計やら、ブローチやらを一つ一つ説明するサエは、

いつになく上機嫌で、

こいつのおしゃれ好きは生まれつきなんだとよくわかった。

それはよかった。


「これ」


最後に出したのは、水色のピアス。


「あの人がくれたの。何でもない木曜日に」


そういって、サエはじっとピアスを見つめた。


あの人。

あの人は、サエがずっと付き合ってた妻帯者で、

変に若造りの、へらへらした男だ。

というのは、すこし悪くいいすぎかもしれないが、

サエの口から、あいつのことを聞くのは付き合い始めてから初めてだ。


「このガラスに色がついてんのか、ガラスの中に色のついたのが入ってんのか、

どっちなんだろう」


言わないだけで、サエの中の何割かをあいつが占めているのかもしれない。


「あたし、ピアスの穴あいてないのにさあ」


少しだけ腹立つ。


「あ、これは中学の時の彼氏にもらったんだよ」


「あ、そう」


「あ、そうって」


「何」


「反応悪いね」


そのとき、思ったより不機嫌な声が出た。


「それ聞いてどうすればいいわけ?」


サエは箱から視線を上げて、俺の方をまっすぐ見ていた。

俺は、なんとなくやりすごしたかったんだけど、

どうしてだけ強く言ってしまった。

サエはそういうの、よく感じ取るってわかっていたのに。


「俺はなんていえばいいわけ?」




あれから気まずい空気が流れ、

サエはもくもくと箱の中の整理をしている。

俺は、クールを装ってもう読み終えた雑誌を読み続けているが、内心、

やってしまったことの愚かさを早くも後悔し始めている。

もう別れたやつのことを気にしたって仕方がない、とはわかっているのに。

はあ、と深く溜息がでてしまった。


「ちょっと、溜息するな」


サエがぐるりと振り向いた。


「あ、わりぃ」


また、会話が途切れる。

さっきも、わりぃって言えばすむことなんだけど、

それもなんとなくいやだし。


「あのさぁ」


サエの声に眼だけをそっちに向けた。


「あたし、みんな好きだったけど、岩田のことを好きな好きとはちがうんだけど」


「え」


「岩田のことしか好きじゃないんだけど」


がんを飛ばすようにまっすぐな目で言ったサエはまた箱に体を向けて、

はあ、とため息をついた。

やれやれ、って感じで。

俺は、というと、

感動してしまった。


まさか、サエの口から、そんなことが聞けるとは夢にも思っていなかった。

ハリケンジャーが好き、と言った時の響きを自分に置き換えて

よろこんでいるほどだったのに。



「お前・・・俺のこと好きなのか」


これからはこいつを心から大切にしていこう。

頭は悪いけど、

ちょっとおかしいけど、

馬鹿な子ほど、やっぱりかわいい。

サエ。


「ふっつー」


サエはそのまま立ち上がり、きもちわるーいと言ってトイレに入った。

俺は、それでもお前が大事だ!