「篠崎」


裸のままふとんにくるまってまどろんでいると、先生が私を呼んで火のついた煙草を差し出した。

若い男の人が吸うような重く舌がしびれるような煙草だ。

起き上がり煙草を受け取ると、私は一口浅く吸いこんで先生の手に返すと、

先生はそれを吸わずに灰皿に押し付けた。


「もったいない」


「減煙してるんだ」


もしゃもしゃになった黒いくせ毛を気にすることなく、

先生は健やかにこちらを向いて笑った。

先生にはもうすぐ4歳になる子供がいて、煙草の量を少なくしている。

もうずっと前から知っていることだけれど、

少しは悪びれてたり、話を出さなかったりしてくれてもいいのに。

かといって、一切触れないというのも気持ちが悪いけれど。


「私ももう煙草吸っていないのに」


学生だったころは、大した理由もなく吸っていて、

校内では追い込まれた喫煙所で煮詰まった実験から逃避したりしていたけれど、

今はやめてしまった。

先生とも、何度か喫煙所で会ったことがあった。

ラクダ柄の煙草が妙にかわいく見えて、それを見るだけでなんだか嬉しかった。

当時私には煙草を吸わない彼氏がいたけれど、

こっそりラクダ柄の煙草にして、いつか先生が同じだね、なんていう日を待っていた。

あの頃、先生は若くて、とてもさわやかで、人の良さそうな助教授に見えていたし。


「吸ってないというのはいいことだ」


「自分は喫煙者のくせに」


「そうじゃなくて」


仰向けで顔だけをそっちに向けると、

先生は体を起こして私の顔を包むようにしながらほほ笑んだ。


「篠崎さんは好きな男と同じ煙草を吸うらしい」


「なに、それ」


「研究室のやつらがいってた。男が変わると煙草変えるからそうなんだろうって」


そのとおりだった。

古い映画で、愛人の女の人がこっそり煙草だけを同じ銘柄にしているのをみて、

いいなと思って真似をしていた。

だけど、こっそりじゃなくばればれだったなんて、ださすぎる。


先生はだんだん覆いかぶさってきて、顔にあてた手でまだ湿る髪をかきあげた。


「吸ってないってことは、彼氏はいないってことかな」


髪で隠されていた耳に唇を当てられて、ぞくりと体が反応する。

外耳を舐められて、ちゅっちゅっと鳥が鳴くように何度も音をたてられた。


「煙草を吸わない男と付き合っているのかも」


「まさか」


熱い肩ごしの天井を見たまま言うと、先生は私と目があうように体の距離をとって、


「俺のたばこ、真似したくせに」


先生は布団にもぐると、少し硬くなっていた乳首のそばに、

ちゅっちゅっとキスをした。


私ははずかしくて、思い切り感じているふりをした。