予備校に行くと斎藤さんに会った。

「涼子さんトイレでよく会うね」

「そうだね」

鏡を除き込んで目の大きさを調節している。

上瞼を抑えた斎藤さんの薬指に指輪があるのがあった。

ふと思い立って個室に入るのをやめて斎藤さんに向かった。

「斎藤さん、私、けんしろうとキスしたんだ」

「え?けんしろうくんと?」

マスカラを持った手を受けに向けてこちらを振り向く。

「いやこないだ聞かれたときはそんなんじゃなかったんだけど。っていうか、今もそんなんじゃないんだけど」

わたしからの突然の告白に目を点にして固まっているところに、続けてまくしたてる。

「好きとかじゃなくて、愛護心みたいなものだったと思うんだけど、彼女もいるしね。でもキスされて、うれしかったの。友達ってそういう証がないから、キスがその代わりだったっていうか」

何にも関係ないのに告白されて弁解されて、

困らせてしまったかもと気がついた。


「なんか、わかるかも」

「え」

「えって。いやわかるよ、それ」

今度はわたしが目を丸くする。

「アメリカ人的なっていうか、マックスで友情ってことでしょ?それってうれしくない?」

肯定の意味でのうれしくない?が、やけにやさしくて、ほっとした。

「ありがとう。なんか誰に言っていいかわかんなくて」

「でも誰かに言いたかったんでしょ?」
ドキリとして曖昧に笑った私に対して、
「うちでよければいつでもオッケーだよ。人にいったりもしないしー」

斎藤さんは再び睫毛を黒くする作業に戻りながらすこし頬を染めてわらった。