風が冷たくなって、潮のかおりも感じ取れなくなっ てきた。
曇り空は夜へと向かって、グレーに色をかえて行く。
水平線を見つめる。
足もとの砂を見つめる。
遠くのテトラポットを数える。
足元を見下ろす。
足が動かない。
足跡が、
私から一歩一歩離れていくのを、
もう止めることはできないのだ。
「一人で、帰れるよね」
最後の言葉がどんな風にも散り飛ばされることなく、
耳元で鳴いている。
残された足跡だけが、
ひっそり私と寄り添っている。
そしてどんどん離れていく。
ばしゃんとゆっくり音を立てて、
靴が濡らされて、
足跡を消された。
いずれは消える足跡を目印にして、
私は歩き始めた。