研究の途中、抜け出して煙草を吸いに出た。
秋とはいっても、日が落ちると空気はきんと冷えて体が強張る。
吐き出した煙が見上げた月に吸い込まれていく。
「さぼったらだめだよ」
白衣を着たままの、おそらく自分と同じく抜け出してきたであろう佑香に声をかけられる。
「お互いに」
言いながらベンチに佑香が座れるスペースを作る。
佑香は自動販売機でミルクティーを二つ買って隣に座る。
「さすが」
ミルクティーを受け取る。
「まあね」
前を見たまま笑っている。
今、このミルクティーが二人の間でブームだ。
「学会の後の飲み会、でたくねぇよ」
のどから胸にかけてじんわり熱くなるのを感じながら言った。
「行かなくたっていいじゃん」
「学会だけでて、あとはすいません、とかありかな」
「ちゃんと断わっていくならありじゃない」
「そうかな。でも、明らかに嘘じゃん」
「ぐだぐだすんなよ」
「ああ、ごめん」
「いいじゃん。誰も気にしてないって。いてもいなくても大したことないって」
「まあ、空気みたいなもんですよね」
「空気・・・それ以下じゃん」
「はい・・・」
「そんなぐだぐだな森田ちゃんと、いったい誰が飲みたいと思うんだろう。
いや、思わない」
「そうですね。そうですよ」
「大丈夫。私が飲んであげる。特別にね」
「佑香。なんてやさしい子だろう」
「ボランティアに目覚めたの」
「そこまで言わせる何かとは何だろう」
「いちいち粘着性を感じさせるね。原因はその天性かな」
「じゃあ、俺は」
「そう生まれながらにして、嫌われるべくして、あるべき姿としてのあなたが今の森田ちゃんよ」
冷めてきたミルクティーの缶を持ち直すと、
その手の甲にほっかいろがあてられる。
「やるよ」
そのまま手を離されて地面にほっかいろが落ちる
「落とすなんて」
「お前はツンデレとかより、少女マンガの男前みたいだな」
「森田ちゃんは映画でさえ活躍しないのび太ってかんじ」
佑香は俺の空いた缶を取り上げ、自分のと一緒にゴミ箱に捨てる。
いい嫁になれる素質があるだろうに。
「寒いから入ろうな」
返事はせず、佑香はにっこりと笑った。
「かわいいのになあ」
校舎の中に入っていく背中につぶやくと、目の前でドアが閉まった。