さとるが麻衣子ちゃんに

「髪切ったね」

と、言っているのを聞いた。


その時、数式を説いていた手が動かなくなってしまって、

ゆっくり二人のほうに顔を迎えると、

何気ない様子で二人が話をしていた。



「りょうこ、髪切ってんじゃねーぞ」

入学してすぐのころ、

昇降口を入ってすぐの鏡を覗き込んでいる私にさとるが言った。

「洒落っ気づきやがって」

とにやにやしながら話すさとるを前に、私は赤くなりながら、

「別に洒落っけづいてなんか」

というのがやっとだった。

私が赤くなったのは、けして恋なんかじゃなくて、

それまで、中学でも特別親しい男の子なんかいなくて、

名前を呼び捨てにする子や、

ましてスカートも長いままはいているいかにもまじめな私を、

ひやかしたりする子なんかいなかったから、

さとるの馴れ馴れしい話し方や、なつっこさに、

私はいちいちどぎまぎしてしまっていた。

でも、

それは恋なんかではなかったけれど、

男友達、に憧れていた私には、

恋にするなんてもったいないくらいの大事な存在だった。


だけど、なんだ。

みんなにそうやって話しかけるのね。

髪型なんて、よく見ていないとわからなそうなところを指摘されたら、

私だけじゃなくてもどぎまぎしちゃうんじゃないのかな。

なんかいやだけれど、

いつか私にも男友達とか、彼氏とかができるのかな。

さとるは、みんなの人気者だからな。






あ、さとるが馬鹿みたいな顔でこっちに来る。



「りょうこ。お前、シャーペン変えた?」