過ごした時間が長いため、

思い出のないものなどない。

だから、ドラマや漫画のように、

ふと零れ落ちた思い出の品に遭遇し、

手で口を覆いながら、

心音を表す効果音とともにへたりこむ、

などというドラマチックなことは何もなかった。

自然と、

自分の歯ブラシを変えるのと同時にもう一方を捨てて充てんせず、

コーヒーを飲もうと思ったらカップが割れたので、

彼の分を自分のものへと変えた。

暮らせば暮らしていくほどに、

彼の気配は消えていくことに、なんの抵抗もなかった。

一緒に過ごす長い時間の間にも、

私は彼がいない生活へシフトすることきに、

抵抗をもたないように、

体を作り変えていたのかもしれないと思う。


まさか、こうならないと思えるほど、

私の心は穏やかでなかった。

いつだって、恋していなくてはならなかった私の心は、

意外と、

壊れかけていたのだ。