先日パリオペラ座の白鳥の湖のDVDを2枚買ってしまいました。
ヌレエフ版とブルメイステル版です。
私の好みとしてはストーリーに含蓄のある方がいいので、ヌレエフ版が好みです。
で、そのあらすじと私なりの解釈を。アマゾンにレビューを書いたのでちょっとダブってます。

最初のシーンで王子は夢を見ています。その中で乙女が悪魔(姿は家庭教師)に白鳥に変えられたうえ、さらわれる光景を見ます。この時点でオデットやロットバルトは王子の心の中の存在という位置づけになっていることが分かります。
現実世界で家庭教師が王子を起こし、パーティーが始まるからゲストの相手をするようにいいます。このヌレエフ版では家庭教師が重要な役割を持っています。ほとんど主人公といってもいいくらいです。演じているのはカール・パケットですが、この人はいつも脇役なのに主役を食っちゃいますね。存在感があるということでしょうか?
パーティーの最中も王子は心ここにあらずで、夢の中の少女が忘れられません。女王がやってきて明日のパーティーで花嫁を選ぶように言いますが、まだ結婚する気はないようです。家庭教師もこいつ、なんとかしなきゃ、という感じで見てます。王子はこのあと友達にに誘われても踊りに加わらず、物思いにふけってます。
ゲストが帰ると王子は一人でバリエーションを踊り、なんかもう自分の世界がすべてみたいです。その時家庭教師が王子の頭をくるくる回してそのあとパ・ドゥ・ドウ(同性だからデュエット?)になります。このあたりが王子になにか仕掛けた感じもするし、王子と家庭教師の関係を暗示してるようにも見えます。家庭教師は王子に弓を渡して「狩りにでも行ってこいよ」と言ってます。

ここからがいろいろ解釈が分かれると思いますが、王子は本当に現実の世界で狩りに出かけたんでしょうか?ブルーレイの特典映像にある解説や封入パンフレットによれば、彼は自分の心の中の世界に入っていったそうです。
ともかくこの後ロットバルトが現れて舞台を横切ったかと思うと、オデットやその他の白鳥が現れて、その後はよく知られているようにオデットの身の上と魔法を解く方法が王子に知らされます。王子はここでオデットに永遠の愛を誓うと約束します。

次の日のパーティーで花嫁候補が出てきます。どの子もかわいいので、私なんか誰でもいいじゃん!と思いますが何しろ王子はもうオデット命ですから目もくれません。すると家庭教師がある女性を連れて現れます。オディールです。オデットにそっくりなので王子はこれがオデットだと錯覚します。しかしもちろんそうではありません。家庭教師は再三にわたりこの女でいいのか?この女と結婚するのか?と確認しますが王子の決心は変わりません。そしてついに結婚の誓いを立てます。その瞬間王子はオデットの幻を見て、オディールは別人だと気づきます。
ここからの家庭教師とオディールの台詞は私の想像ですから信用しないでください。
「わははは、この女はな、私がお前から聞き出した夢の女の姿に似た女を街から拾ってきたのだよ。こいつはただの娼婦だ。お前は娼婦と結婚の約束をしたのだ。現実を見る目を持たないオロカモノめ。」「お客さん、ちゃんと役目は果たしたし、その上高難度の32回フェッテまで踊ったんだからチップはずんでくださいよぉ?」
ま、そんなことを言うシーンはありませんがオディールの高笑いはなんか怖いです。
茫然とする王子、慌てふためく周囲の人々。

そして場面はまた王子の心の世界にへ。
オデットに許しを請いますがもうどうしようもありません。そこへロットバルトが現れ、彼は冒頭の夢のシーンと同じくオデットを連れ去ってしまいます。悲嘆にくれる王子は一人残され・・・

ストーリーはこんな感じです。

パリで上演された時のプログラムには「フロイト的無意識の世界」と紹介されてたようです。家庭教師と王子の関係をエディプスコンプレックスととらえたのかも知れません。しかし私としてはむしろかなりユング的な気がします。
男は(女もですがここは便宜上男について話します)恋愛をする時期になると自分のアニマと対峙することが避けられません。アニマとは男性の中にある女性的な部分で、男性が男性として成長する過程で未発達なまま取り残されています。本来自分の人格の一部として取り込まれるべきものですから、これが本人には理想の女性像として感じられます。つまりここではオデットです。人間と白鳥の両方の姿をしている点もアニマ的です。このアニマが恋愛においてしばしば現実の女性に投影されますが、それは恋愛というより単なる憧れのようなものです。現実の恋愛では相手の負の部分も受け入れなくてはいけませんが、この投影は相手がすべて理想の姿に見えてしまうので必ず破たんします。しかし厄介なのはこのアニマにとらわれる状態は本人には非常に耽美で、ある意味心地よい世界だという点です。失恋するのはつらいのに、何度もすすんで失恋するタイプです。
王子は将来、王となるべき人間ですから現実社会で生きていく心構えが必要です。結婚についてもいろんな側面を考慮しなくてはいけません。家庭教師はそれを王子にやや過激な方法で教えたんではないでしょうか?そもそも彼は王子と師弟関係にあっても、仕えているのは女王です。彼の使命は王子をできるだけ速やかに大人にすることです。
そのための荒療治だったのかもしれません。
ですから王子の夢の中では家庭教師は悪魔のような存在として現れます。しかしこの夢の中の家庭教師も、実は王子の人格の一部だということも忘れてはいけません。
結末は悲劇に見えますが、このように考えれば王子が大人になるための経験しなくてはならない葛藤とも取れます。
しかし誤解のないように付け加えるなら、本来アニマはある段階で人格の一部として再統合され(ここではオデットとの結婚?)、それによってさらに高い次元の、より深みのある人間に成長することができると言われています。その意味ではいつの日かオデットは再び現れて、少し大人になった王子はもっといい関係を築けるのかもしれません。ロットバルトはあくまでオデットを連れ去っただけですから。

ブルーレイのパンフにはヌレエフがチャイコフスキーの内面の世界における、無意識の役割を明らかにしたとあります。チャイコフスキーは結婚に失敗した後、パトロンのナジェージダに空想的でロマンティックな手紙を送っていて、彼女から「あなたはホントの恋愛をしたことがあるんですか?」と聞かれるほどだったそうです。
このバレエはヌレエフのチャイコフスキーに対するオマージュでもあり、返答だったのかもしれません。

画像はブルーレイジャケットから引用


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追記
2017年のライブシネマについての感想はこちら