だが、中国は日本の輸出先として、最も緊密な相手といえるのだろうか。実は輸出額の多寡では貿易関係の緊密度は判断できず、別の尺度が必要となる。それは「貿易結合度」と呼ばれる指標で、2国間の貿易関係の分析によく用いられるものだ。
考え方はシンプルだ。例えば、日本と輸出先・中国の貿易結合度を求めるには、日本の総輸出額に占める対中輸出額のシェアを、世界の総輸出額 に占める対中輸出額のシェアで割ればよい。つまり日本の対中輸出シェアが世界の平均的な対中輸出シェアをどれだけ上回る(下回る)かを調べ、これを緊密度 の判断材料とする。結合度の数値が大きいほど緊密な関係とみなされる。
そこで冒頭の5カ国・地域を対象に、日本との貿易結合度をそれぞれ計算してみた。その結果、結合度が大きい順に1位・タイ、2位・韓国、3 位・中国、4位・香港、5位・米国となり、順位はがらりと変わった。日タイ間の貿易結合度は4に近かった。このことは日本の対タイ輸出が、世界の平均的な 対タイ輸出に比べ約4倍も「濃密」な状態にあることを示す。日中間の結合度は2強で、日タイ間の後塵(こうじん)を拝している。
実は日本と輸出先・タイの貿易結合度は00年から毎年、この5カ国・地域の間では最高の値を示している。しかも結合度はほぼ一貫して上昇し ており、韓国が05年、中国が08年から伸び悩んでいるのと対照的だ。ここから日本からの輸出額やシェアの絶対値では読み取れない、輸出先としてのタイの 「重み」を指摘することができる。
日本の対タイ輸出(09年)の上位品目は、1位・集積回路(IC)、2位・自動車部品で、この2品目で輸出額の約4分の1を占める。 00~09年、日本のIC、自動車部品の総輸出額は各9%減、43%増だったが、同じ期間にタイへの輸出額は各38%増、2.4倍と膨らんだ。日本からの 部品供給先としてタイの存在感が増していることを示しており、これが貿易結合度上昇の背景とみてよい。
もともとタイには日本企業の生産拠点が集積していたが、00年代にその状況に拍車が掛かったのだ。そして今、拡大するアジアの内需などを 狙って、自動車や食品メーカーなどの日本企業がタイへの新規・追加投資を一段と増やしている。日タイ間の貿易結合度はさらに上昇する可能性が高い。貿易大 国・中国の存在に目を奪われがちだが、日タイ間の「緊密な関係」にもっと関心を払ってもよい。