彬子女王のオックスフォード留学記、「赤と青のガウン」。
最初に出版されたのはだいぶ前のようですが、最近ベストセラーになって気になってました。
皇族の書くエッセイとはどんなものなのか?
感想をお届けします。


概要


現在の天皇のはとこに当たる彬子女王が、オックスフォード大学での計6年間の留学について赤裸々に語った一冊。
「生まれてはじめて一人で街を歩いたのは日本ではなくオックスフォードだった」のキャッチコピーの通り、留学してはじめて一般人のような生活を経験し、その新鮮さと学業の辛苦、さまざまな人との出会いについてかなりリアルに綴られた留学記。

皇族の方のエッセイをはじめて読んだのですが、意外と普通の感覚を持っておられるんだなというのが最初の印象。

「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」的な視野の狭さがあるのかと思いきや(偏見がすごい)、一般人と変わらない、地に足の着いた文章が印象的でした(誰)

皇族×留学の非日常感


皇族の方の話というだけでまず新鮮ですが、オックスフォードへの留学というこれまた未知の世界の話なので、皇族×留学でもう異世界も異世界!

エリザベス女王に招かれて宮殿でアフタヌーンティを共にした話、

護衛は力自慢では負けないけど英語が話せないので意外と海外では役に立たない話、

毎月、侍女たちが日本から贈り物を届けてくれる話

など、皇族ならではのエピソードが満載でめっちゃ面白い!
興味深い話の連続でした。


彬子女王の人間力に感服


日本美術についてイギリスで研究され、博士号を取られたわけですが、
本作からはものすごい苦労ががあったことがわかります。
英語がおぼつかないところから必死で努力して、
教授たちと議論し、論文を書きまくり、厳しい指導にもなんとかついていき、得た博士号。

その中でかなり詳しく描かれるのが、助けてくれた友人や先輩、指導教官たち。
彬子女王は、「みんなの助けがあって、なんとかやってこれた」と、関わった人々に度々感謝を述べていますが、感じるのは「彬子女王は人付き合いがめちゃくちゃ上手なんやな」ということです。

留学当初から、色んな人に色んな人を紹介され、どんどんと人脈が広がって、研究を手助けしてくれる人、勉強になる機会を与えてくれる人、楽しいパーティで安らぎを与えてくれる人、議論しながらランチを共にする人、様々な人に囲まれて過ごしたことがわかります。

それって、オックスフォードの研究者たちの特性もあるのかもしれないですが、きっと誰もがそうはいかないのでは?と思いました。
彬子女王の愛嬌と人の好さ、ユーモア、つまりはトータルの人間力で築いた関係なんやろうなあと、感服。


いい人しか登場しない違和感
 

上述の通り、彬子女王は素晴らしい人たちに出会い、助けられ、愛されて6年間の留学を終えるわけですが、
ひねくれものの私はちょっと違和感を覚えました(すみません)
それは・・・

嫌なやつが一人も出てこない!
アジア人として受けた差別とか、嫌がらせしてくるやつとか、いたとしてもそんなことはわざわざ留学記に書く必要のないこととして切り捨てられたのか?と思いますが、
普通はきっと日本人なら一つや二つ、ヨーロッパで起きた印象的ないやな出来事があるだろうと思うんです。

これにどこまで「日本の皇族」であることが作用しているのか、という点が気になりました。
周囲の人々も彬子女王が「日本の皇族」であることは重々承知なので、決して嫌な思いをさせないよう色々な配慮をしたために、彬子女王の体験としては「素晴らしい人々に囲まれた幸せなイギリス生活」なのか、

それともオックスフォードくらい有名、かつレベルの高い場所では、人種差別や幼稚なもめごとなど起こるはずもなく、無縁でいられるのか。

検証のしようがありませんが、少なくとも彬子女王の「人間力」が導いた結果ということは間違いないですね。



以上、ひねくれた感想が混じってしまいましたが、
ユーモラスで親近感たっぷりの彬子女王による留学記、知らない世界が詰まっていて本当に面白いので、ぜひ一読をおすすめいたします!

ちなみに、留学をめぐる父親とのエピソード、その後亡くなった父親への感謝は随所で綴られてるんですが、母親は一切出てこない。
皇族と言えど、一般人と同じく悩みや事情が色々あるんでしょうね(誰)