2021年本屋大賞 翻訳小説部門1位の「ザリガニの鳴くところ」を読みました。

2020年にアメリカで一番売れた小説だそうです。

2021年の「このミステリーがすごい!」にも2位でランクインしている模様。

 

あらすじ

1950年代、白人貧困層の家庭に生まれた少女が、自然の摂理と世界の残酷さを学びながら成長していく成長物語。

同時に、殺人事件の謎を追うミステリー小説でもあります。

主人公の少女カイアは、母親も兄弟たちも暴力を振るう父親から逃れるため家(沼地のあばら家)から出て行ってしまったあと、一人で懸命に生き抜いていきます。

 

彼女の力になるのは、彼女を取り囲む力強い自然。木、虫、鳥、川、海、砂、土、沼。
 

そしてたった数人の心優しい人びと。

 

感想

けっこう分厚いんですが、面白すぎて一気読み。
途中でやめられず夜中3時に読了して、翌日は半目で過ごしました。

 

・ミステリーは後半から

 

ミステリー小説という触れ込みにしては、事件はいつ起こるの?あれ?
というくらい、後半になってはじめてミステリーが巻き起こる。

でも実際、前半の彼女の自然との対話、貧しさを生き抜く知恵の描写がすごすぎて、ミステリーのことは忘れてた(それくらい途中までミステリー要素なし)。

 

・物語の舞台となる沼地の表現が巧みすぎ

 

沼地の描写がすごい。沼地って、これまで生きてきて想いを馳せたことほんまにないんですが、沼地の自然としての営み、生き物たちの摂理をめちゃくちゃ精緻に説明してます。
そしてそれが、退屈でなく、面白く読めてまう。

 

この著者のディーリア・オーエンズさんは、自身が動物学者だそう。
納得納得。

 

・カイアの人生を切り開いてくれる最重要人物、テイトがいい男すぎる

 

なんと言っても見どころは、カイアが小さいころから彼女を気に掛ける少年、テイト。テイトは沼地ではなく陸地のある程度裕福な家で、父親と二人暮らし。

彼は川をボートで渡って、カイアのもとへ足しげく通い、読み書きを教えてくれます。カイアの人生は、テイトによって切り開かれていくんです。

 

カイアに熱く心を寄せ、カイアも彼を愛し、互いにとって人生で最も大切な人となっていくその過程が、何とも美しい!尊い!

 

・黒人男性ジャンピンの存在が泣ける

そしてもう一人忘れたらあかんのが、ジャンピンというあだ名の黒人高齢男性。彼は沼地で小売店を営んでいて、ひとりぼっちのカイアをいつも気にかけ、あらゆることについて彼女を助けます。

 

この時代、黒人はひどい人種差別がまかり通っていますが、ジャンピンはそれについて悩むとか怒るとかそういう挙動は一切なく、ただひたすら人生を穏やかに、豊かに生きています。

 

このジャンピンの存在が、カイアをどんだけ救ってくれたかわからん。

ほんまありがとう(誰)

 

金持ちの白人に差別・偏見を持たれる貧困白人のカイアと、白人にひどい差別を受ける黒人のジャンピンの間には、互いに何の差別感情もないところも、人間の本来の姿という感じがしてあったかい気持ちになれます。

 

・衝撃(?)のクライマックス

 

殺人事件の真犯人が明かされる形で物語は幕を閉じます。
私は「まじか!そういうことか!うおーーーー!」となり一人で大興奮しました。

 

でも、オンライン読書会(月1でやってます)で他のメンバーの感想を聞くと、「この結末は正直読めた」「まあそうやろなとは思った」的な感じだったので、人によって感想がけっこう分かれそう(私が鈍いだけ説)。

 

 

ミステリー小説としても、サクセスストーリーとしても非常に面白く、新しく、めちゃくちゃ素敵な読書体験でした。おすすめ。