「死」は新たな旅の始まりである。楽団が解散され、職を失った元チェロ奏者が次に選んだ

職業は、死者の旅立ちを演出する「納棺師」だった。

 故郷・山形県に戻った主人公が、「納棺師」という職業に対する偏見や、妻との確執を乗

越え、プロとして成長する物語である。最初は戸惑いながらも、一生の仕事として誇りを持

てるようになったのは、「おくりびと」に対する遺族の感謝の言葉だったのだろう。

 ラストシーンで、彼はある人物の「おくりびと」になる。身を清め、死化粧を施す彼の目

に涙が溢れる。彼がこの仕事を誇りに思った瞬間だった。

 私の母は29年前に亡くなった。病室のベットで喘ぐ母の手を握りながら、死を看取った。

安らかな死だった。死への恐怖感が消えた体験でもあった。葬儀は業者に任せたが、死化粧

を施した母の顔は今もはっきり憶えている。苦しみから解放された穏やかな表情だった。

 肉親の死は、本人は自覚していなくても、その後の生き方を左右するくらいの出来事かも

しれない。死者の旅立ちは、見送った遺族にとっても新たな旅立ちの始まりなのだ。