1月も最終日の31日、昼間は久々に春めいた陽気になりました。
この日の仕事は東京本社だったので、昼休みに散歩に出てみます。
行先は、昔よく歩いた“神宮外苑”。

お馴染みの銀杏並木です
青山通りの銀杏並木から入って、絵画館の周りをグルッと廻り、神宮東通りで赤坂御用地の脇を通って戻るのがお決まりのコースでしたが、今日はある目的を持って神宮西通りの方へ廻って見たいと思います。
…というのも、このルートだと国立競技場の周りを周回する事になります。

今が一番寂しい季節ですね
2020年に開催される2度目の東京オリンピック、そのメイン会場になるのが此処で、2年後の完成を目指して“新東京国立競技場”の建設が急ピッチで進んでいる筈です。

外苑の看板も もう新国立競技場になっています
昭和30年代前半の生まれですから、前回の東京オリンピック(昭和39年)の確かな記憶はありませんが、オリンピック2年前の東京は競技場だけでなく、新幹線、首都高、ホテルなどの建設ラッシュで、至る所で建設の槌音が鳴り響いていた…、つまり日本国史上空前の活況を呈していた時だったのですね。

神宮球場の横を過ぎると
近年のオリンピックは、金を掛けずに既存の施設を有効に活用し、放映権料をしっかり払う事が誘致のポイントになり、今度のオリンピックもその指針に添って既存施設の活用が主体になります。
しかし、メイン会場の国立競技場は半世紀以上の歴史を経て老朽化が進み、新しく建て替えられる事になりました。
つまり、あの昭和30年代の活気あふれる建設現場と、その象徴とも言える槌音を聴けるのは此処だけなんです。

建設現場が見えてきます 凄い数のクレーンが集まっていますね
工事の進捗具合は、三層の観客席の鉄骨工事はほぼ完了し、一部では屋根の取り付け段取りが始まってる様に見受けられました。
工程表などは公開されてないので、ON TIMEなのかどうかは判りませんが…。
当初はトルコ人建築家の奇抜なデザインの案が採用されましたが、施工の予想価格が大間の初マグロみたいにどんどん高騰して行き、見積もりの1,300億円から3倍近い3,000億円以上にもなった事から、安部首相の裁定で当初計画が白紙撤回され、1,500億円を上限に再設計されたものが建設されています。

スタンドは三層まで組み上がり、屋根の工事に入ってる感じですね
最近のオリンピックのスタジアムは何処も新設されていますが、アテネのスタジアムが350億円、シドニーが680億円、ロンドンが800億円、北京が500億円、リオが500億円(いずれも実績)だそうで、何をどう計算すれば3000億円なんて数字が出てくるのか…、国内で同規模の横浜の日産スタジアムが603億円ですから、もう呆れるばかりですね。
長らく景気低迷中の日本に天から落ちてきた角砂糖に、いかに多くのアリが群がって貪ろうとしたか… 日本の恥ずかしい体質を世界に晒したのは間違いありません。
さらにこのゴタゴタは、旧スタジアムの撤去手番を圧迫し、技術者の過労死という悲劇も引き起こしています。

施行は大成建設みたいですね パルコンの大成は今やスーパーゼネコンに大成しています
しかし、図面が決まり、工期と価格が決まればその後は日本の製造現場の事、質の良い仕事の積み重ねで2020年の春には必ず立派なスタジアムが完成している事でしょう。
さて、肝心の聴きたかった槌音なのですが、周囲をグルリと廻って見ても殆ど音は聴こえません。
巨大な鉄骨の骨組みを見なければ、そこが建設現場である事を忘れるほどの静かな環境で工事が進んでいます。

北側の外苑駅には雪が残っています
大きな建物を建てるとき、まず地中にコンクリートパイルという電柱状の杭をたくさん打ち込んで基礎を固めますが、専用の重機でパイルを吊るして、上からハンマー状の鉄塊を落として地中に打ち込んで行きます。
私は長らくこの時に発する“カーン、カーン”という音を“建設の槌音”と定義していましたが、現在はもうこの工法は主流ではないんですね。
大きなドリルで地中に竪穴を掘ると、H型鋼を挿入して、隙間にコンクリートを流し込んで杭にする様です。
騒音対策が目的でしょうが、恥ずかしながら最近になって知りました(^-^;


たくさんのクレーンがフル稼働中
そして、鉄骨の建て方工事に欠かせないのは、鳶職がハンマーで鉄骨を叩く“ガンガンガン”という威勢の良い音。
あれは接続するボルトを挿し込む時に、合わない穴の位置を現場で微修正してるのですが、そんな建設途上の誤差も、デジタル技術が発達した現在は図面上でシミュレーション出来るので、叩く事は滅多に無いのだそうです。
昭和の風情は…ますます遠くなりますね。

南側の神宮第二球場あたりは工事が一番進んでるかも
2年後の東京オリンピックを生で見に来る事は、おそらく無いでしょうが、見慣れた神宮外苑の風景と新しいスタジアムをテレビで見られるのを楽しみにしています。