【ラストマイル感想】がらくたな2人と。 | きみが好きだと叫びたい

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奥華子さん、早見沙織さんを応援しています。

*ネタバレあり。全て作者の勝手で個人的な推論です

ラストマイル知らない方向けに。








今作は、現代日本を支える人々の存在の大きさを、その課題も含め高い解像度で描いている。警察救急はもちろん、働くシングルマザー、大量の派遣労働者、システムを担う中間管理職、そして、生産者や消費者といった物流サービスユーザーへのラストワンマイル(最後の区間)を担う、トラックの運転手たち。

特に舞台の中心となっている物流業界では、低賃金や人手不足、高齢化といった問題が現代と同様に挙げられている。近年日本では「ホワイト物流推進運動」の名に改善を働きかけられているが、事業所の文化に国の規制が加わりがんじがらめになっている現場で労働者は定着し辛く、むしろ人手不足は加速度的に深刻化しているのが現状である。

しかし物流は業界を問わず、また組織に留まらず、全ての個人が恩恵を受けて生活している、今や社会に必要不可欠な存在である。そのためか2024問題と呼ばれる輸送能力欠如予測に対しては、業界当事者に並び、直接は担わなくとも流通の社会に生きる各組織・各個人にも、構成員として貢献の一端を託されている。故にこの問題の行末は、貢献を望まれるそれぞれの意識への働きかけが重要であると考えられる。

「変えようとすることはできるのか」「変えなければいけないものは何か」「変えた先に見えるものとは」、貢献に応えるという目線で、今作で働きかけの中心である「筧まりかと山崎佑がしたかったことは何か?」を見ていきたい。


知っていますか?物流の2024年問題 | 全日本トラック協会 | Japan Trucking Association


まるで偽装請負? アマゾンの「多重下請け」構造、宅配業界の闇 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン) https://forbesjapan.com/articles/detail/48749




舞台であるデイリーファースト。通称デリファス。(どう見てもAmazonの物流センターである。)

実際のAmazonは人手不足問題に対し投資と改善策を持って対応しているが、

一方で現場は過酷な労働環境であることがわかる複数の調査結果が報道されている。


Amazonが2024年の日本のラストワンマイル配送に250億円以上の追加投資を発表 - About Amazon | Japan


Amazonの本社で飛び降り自殺が起きたことについて従業員200人が匿名アプリで本音を暴露 - GIGAZINE


山崎佑は環境から解放されたいという思いから、絶対止めてはならないとされていたベルトコンベアを止めようと3Fから飛び降りる。

結果自身の肉体に荷物が引っかかり工場の動きは停止するも、身体はどかされすぐに復旧してしまう。事故として処理され、会社側の安全配慮義務を訴える権利も失ってしまう。意志として残していたロッカーの文字は、その後複数のスタッフの目にするが伝わらないのか、辞めるとなった時に伝わっていったのかともかく誰も声を上げず。唯一味方であった恋人からも親から切り離される。

世界は世界を止めないことばかりで、ひとりの身から放たれた爆弾には無関心だった。


筧まりかは、恋人であった山崎の死に疑念を持つも誠実に対応されなかったことで、

物流センターから運ばれていく荷物に爆弾を仕掛けることを考える。

「もし死んだのが私のせいじゃないとしたら……」「この世界は贖ってくれますか?」とテロ実行前に願っていた『贖う』とは、彼女にとって、恋人の行動から社会が責任を感じ動くことだろうと推測する。

しかし実際にはデリファスは責任能力を回避し通常運転、被害者である山崎は植物状態となってしまう。恋人の無念を晴らすため、また彼を助けなかった自分と社会へ同じ思いを味合わせてやりたいと、自身の肉体を捧げ無差別爆弾テロをおこした。

テロにより荷物を運べなくなったデリファス日本支部の一角である武蔵野センター、そしてその下請け会社は連鎖的に一時機能不全を起こす。経済は止まり、物流に支えられていた日々が浮き彫りになっていく。


収入をデリファスに依存し、緊急の対応で限界を超えくたびれた羊急便は、舟渡と結託しここで集団ストライキを決行。100万個以上の荷物が届かない大騒動の中、多くの配送業者の申し入れ書がデリファスジャパンエリアマネージャーの五十嵐に渡される。結果デリファス側が交渉に応じることになり、安全も確保された羊急便は役職員を導入して配送を再開させた。


交渉は最終的に賃金上昇に繋がった。会社は1億6千万の損失を嘆き、一方で運転手は配送料1箱20円アップを手放しで喜ばない。生活が楽になるわけじゃない。ベルトコンベアは止まらない。ノルマがなくなるわけじゃない。筧の、犯罪行為も、自らを灰にするほどの根性も社会からは望まれない。だが受け継がれたわけではなくとも、別のやり方で変えようとした人々と、その成果は描かれた。



全身を捧げた2人による一連の爆弾は終息していくが、ここでラストシーン、舟渡エレナの「爆弾はまだある」という言葉に注目したい。爆弾は目に見える形のあるものではなく、もっと大きな、ベルトコンベアが動き続ける限り生み出される問題、第二第三の山崎佑や筧まりかが現れること、その可能性を秘めた社会の危うさを指しているのだと思われる。しかし解決策は示されず、この先は「What do you want? 」と視聴者に問いかけられている。課題が山積みな現代、手遅れになる前に私たちがすべきは考え続けていくこと、と受け取った。



普段うまく眠れず朝の電車でうとうとしてしまう舟渡エレナの描写ーには個人的にとても共感した。ので、ひとまず私も健康を欲したい。たくさん食べてぐっすり寝よう。今日は久しぶりにそれができる気がする。


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