ー・・・わたしの日常は朝の紅茶から始まる。
いつも朝7時に起床し、制服に着替え、顔を洗い、紅茶を飲む。もちろん、ホットで、必ずミルクも入れる。
そして昨日のことを振り返りながら、
あぁ、今日も学校めんどくさいな。何か新しいことないかしら。なんてことを思いながら、時間になるまでひたすらボーっと惚けるのだ。
これが、わたしの1日の始まり。
「そろそろ行きますかーーー・・・」
ふと木製で縁取られた掛け時計に目をやると、もう家を出なければ学校に間に合わない時間になっていた。
歩きで20分程の距離にある学校。
遅刻ギリギリに行くのもなかなかにスリルがあって楽しいのかもしれないが、疲れるようなことをしたい訳では無いので真面目に通学をする。
玄関にシンプルな写真立てに飾られた両親の写真に、「いってきます」の挨拶をし、家を出る。鍵を閉めていると、背後から「ニャぁ」という愛らしい鳴き声が聞こえ、猫好きのわたしは躊躇いなく振り返った。
そう、
今思えばこれがそもそもの間違い。
・・・背後には期待と想像を裏切るモノが視界に入った。
どこかのテーマパークのお土産を彷彿させるようなウサギの被り物、・・・フェイスマスクと呼んだだろうか。きぐるみの頭にしては小さめにできた被り物をし、赤いスーツに赤いコートを身に纏った人間が、黒猫1匹を両手に抱えてこちらを見据えて立っていた。
ウサギの被り物はピンク色でちょっとアホっぽい表情をしていて、加えて長身の男の人なものだから、あらゆる意味を込めて恐怖を感じずにはいられなかった。
そ、そんなに見られても困る・・・。
長く感じた沈黙の間を破るように、わたしは精一杯の誠意と礼儀を表す。
「な、なにか、御用・・・ですか?」
あからさまに動揺を隠しきれないわたしの声。
一呼吸分くらいの間を空けたウサギの人は、うんともすんとも答えずに片手をわたしに差し出した。
え、本気で謎過ぎて怖い。
怖い、んだけど・・・。
誘拐のような強制力は無いからか、強姦のような暴力も無いからか、どちらかと言うと紳士的な雰囲気を出すウサギの人に、わたしは魅入るようにその手を取ってしまった。
何かが始まる、そんな予感がしたのだ。退屈な日常に色が挿す、そんな期待を持ったのだ。
ウサギの人の手を取った瞬間、
・・・もちろん何も変わることは無く。わたしは少し期待を裏切られた、そんな気分になった。
「・・・あの?」
「ガッコウに遅れますよ」
なぜ手を差し出されたのか疑問に思い、ウサギの人を見上げたら、不意をつかれた発言と、予想外なセリフに、・・・へ?とおもわず間抜けな声を漏らしてしまった。
ハッと我に返ったわたしは、本来なら余裕で登校していたはずの学校へと急いで走って行った。
あぁ、もう、なんなの!
あの人不審者すぎるでしょ・・・!!
あんなのに構わず登校していれば今頃、学校の近くまで歩いてたはずなのに、そう思うと、魅入った自分が悪いのは分かっていても悪態をつかずにいられなかった。
息を切らしながら着いた学校。
しかし学校に着いた安心感を置き去りにして、妙な胸騒ぎみたいなものが、わたしの足を重くする。
今の時間なら登校する生徒で校門は賑やかなはずなのに、先生どころか生徒の1人すら誰もいないのだ。
「どういうこと・・・?」
もしかして完璧遅刻した?でも玄関の前で時間を潰したのは数分のはず・・・。
いろんな考えがわたしの頭の中を満たすが、いくら考えたところで考えがまとまるわけもなく、わたしは校舎入口まで歩き出した。
校舎にある時計は8時15分を示していた。ホームルームは8時半から始まるのだから余裕の登校だ。
下駄箱でたむろする女子生徒もいなければ、教室へ向かう途中にあるホールで談笑している男子生徒もいない。職員室も覗いてみたが先生も1人もいなかった。
まだ回ってない教室もあるが、さすがにこの異変の中、1人で歩き回る勇気はなかった。
右往左往と職員室をウロウロしていたわたしは、担任の先生である机の上に開かれたノートパソコンに気付き、そそくさと近寄った。
「あ、電源ついてる・・・!」
ちょっとした進展に希望を感じたわたしだったが、パソコンの画面越しに、わたしの背後に誰かの影を見てしまい、慌てて振り返ったが、その人影の正体を見ることは叶わなかった。
後頭部の下、首の間くらいに強い衝撃を受けたところで、わたしは意識を手放した・・・。
prologueーーーEND
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