巨人アップル、「iCar」に現実味 編集委員 小平龍四郎
米アップルが電気自動車(EV)の開発を進めているとの報道が米欧で相次ぎ、アップルのファンだけでなく株式市場の関係者も注目しています。
iPhone(アイフォーン)からiCar(アイカー)へ――。夢のような報道に現実味を与える1つの要素は、金融資産が1780億ドルに達するという強
大な財務の基盤です。1ドル=120円で換算すると21兆円強。これをすべて取り崩し、外部からも資金を調達すれば、時価総額27兆円のトヨタ自動車の買
収も不可能ではないように見えます。アップルはどこまで巨大なのでしょうか?
「1時間あたり3万4000台売れた」(英エコノミスト誌) というアイフォーンの好調で、アップルは2014年10~12月期に180億ドルの純利益を上げました。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスによれば、 180億ドルという利益は上場企業の四半期決算として最高額です。これまでの最高はエクソンモービルが12年4~6月にあげた159億ドルでした。180 億ドルを先ほどと同じように1ドル=120円で円換算すると約2兆1000億円。トヨタが10~12月期にあげた6000億円の純利益の3.5倍となりま す。原油価格の上昇という追い風を受けていたころの石油メジャーや、販売台数世界一の自動車メーカーの業績を上回るところに、アップルとアイフォーンのす ごみが読み取れます。
■ケタ外れの現金創出力

小平龍四郎(こだいら・りゅうしろう) 88年日本経済新聞社入社。証券会社・市場、企業財務などを担当。2000~04年欧州総局(ロンドン)で金融分野を取材。現在、証券部編集委員兼論説委員。
イメージをつかみやすいように、円換算したアップルの財務内容をもう少しみてみましょう。企業の現金の出入りを記したキャッシュフロー計算書によれば、
アップルが10~12月期に営業活動で得た現金収入の総額は4兆円でした。同期に設備投資など社外に出て行った現金が2兆5000億円でしたから、差し引
き1兆5000億円のフリーキャッシュフロー(FCF)を得た計算です。トヨタの9カ月間(4~12月期)のFCFは800億円ですから、アップルがケタ
外れに高い現金創出力を有していることが分かります。最近のアップルはアクティビスト(物言う株主)から株主配分を増やすよう求められていますが、高水準
のFCFをみると、投資家の言い分も当然に思えます。
FCFから配当や自社株買いなど財務活動に伴うお金の出入りを差し引いた金額が、いわゆる手元資金として残ります。アップルは8300億円の財務 上の支出がありましたので、6700億円が手元資金の増加額となりました。この結果、12月末の貸借対照表の「現金・現金等価物」は2兆3000億円とな り、1兆5000億円の「短期有価証券」とあわせ3兆8000億円の「手元流動性」が計上されました。冒頭で紹介した1780億ドル、21兆円という数字 のほうが知られていますが、これは手元流動性に長期有価証券の残高を加味した数字のようです。
トヨタの12月末の手元流動性は4兆 5000億円で、同じ項目で比較するとアップルより大きいのです。堅実な財務が銀行にもたとえられたトヨタの懐は、やはり潤沢です。取引先への部品値下げ 要請の見送りや、賃上げへの期待の高まりの背景には、このような資金面での余裕があるのでしょう。
■日本の1~9位の合計に相当
さて、再びアップルです。同社の大きさを実感できるのは、何よりも株式市場においてでしょう。アップルの株式時価総額は世界最大で、円建てでは90兆円に 迫ります。日本の株式市場では時価総額首位のトヨタ(27兆円)から9位の三井住友フィナンシャルグループ(6兆円)までの合計にほぼ相当します。
11年8月にスティーブ・ジョブズ氏が経営の一線から退いた時は、後継のティム・クック最高経営責任者(CEO)の手腕を不安視する声もありました。しかし、新型アイフォーンの投入や中国市場の開拓などにより、株価はクックCEOのもとで2.3倍になりました。
強大な財務、ビジネスの成功、圧倒的に高い株式市場の評価。iカーに自動車業界が身構え、投資家が期待を募らせるのも、そうした要素がつまったアップルの巨大さの故でしょう。日本にも大きさを感じさせる企業の登場が待たれるところです。
