「どこでも高速通信可能」と鳴り物入りで上陸したモバイルWiMAX(ワイマックス)が大きな曲がり角を迎えている。高速通信のお株を急速に普及した 「LTE」に奪われ、サービスを提供するUQコミュニケーションズの契約数は2013年初めから頭打ちになっている。同社は巻き返しの切り札として、これ までより2~5倍の高速で通信できる新生「WiMAX」として攻めに出る積極戦略に出る。

高速データ通信が売りの「WiMAX2+」の速度を来春に2倍にする
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高速データ通信が売りの「WiMAX2+」の速度を来春に2倍にする

■100万台以上を無料配布

  モバイルWiMAXのサービスを提供するUQコミュニケーションズは、契約者に対して機種変更料金を取らずに最新のモバイルWi-Fiルーターに無償交換 するプログラムを11月1日から実施する。WiMAXの契約者であれば、ルーターだけでなく内蔵ノートパソコンやUSB端末で利用している人も対象となる (ノートパソコンやUSB端末ユーザーにもルーターを配布)。

 UQコミュニケーションズには、14年6月現在で415万の契約者がいる。このなかには、13年10月からサービスを開始したWiMAX2+ユーザーも含まれるが、今回のプログラムの対象となるのはWiMAXユーザーのみでWiMAX2+ユーザーは対象としない。

 対象となる具体的な数は明らかにしていないが、少なくとも100万件以上のユーザーが対象になることは間違いなさそうだ。

 つまり、UQコミュニケーションズは100万台以上の新品のモバイルWi-Fiルーターを用意し無料で配ることになる。

■新サービスのため電波を空ける

  キャッシュバック競争は一息ついているものの通信事業者(キャリア)間のユーザー獲得争いは相変わらず過熱している。とはいえ、100万台以上のルーター を用意するとなると百億円規模の出費を伴う。なぜ、UQコミュニケーションズはそこまで大盤振る舞いの大胆なプログラムを実施するのだろう。

 実はUQコミュニケーションズは、来春に1秒あたり220メガビット(Mbps)という超高速サービスの提供を開始したい狙いがある。そのために、既存のユーザーには新しい周波数帯にぜひとも引っ越してもらいたいのだ。

 UQコミュニケーションズは現在、2009年7月に有料サービスを始めた最高速度40Mbpsの「WiMAX」を30MHz幅で提供している。同 時に、2013年7月に総務省から新たに割り振られた20MHz幅の電波帯を使って最高速度110Mbpsの「WiMAX2+」というサービスも並行して 提供している。

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 このWiMAX2+を拡張して現在の2倍である220Mbpsを実現させようと計画しているのだ。具体的には、利用する電波の帯域も2倍にした上で「キャリアアグリゲーション」という技術でそれらを組み合わせる。

 そのために、WiMAX2+で使う新しい20MHz幅が必要となってくる。だが、総務省から新たに割り当ててもらうことは不可能だ。

 そこで、すでにWiMAXとしてサービスを提供している30MHz幅のうちの20MHz分をWiMAX2+に振り替えようと考えたわけだ。

■既存WiMAXの速度は3分の1に

  電波の付け替えをスムーズに実現するため、いまWiMAXを使っているユーザーをWiMAX2+に早期に移行してもらおうと実施するのが今回の無料機種変 更のプログラムだ。電波を利用している人の移行が目的なので、UQコミュニケーションズのネットワークを使っている仮想移動体通信事業者(MVNO)の ユーザーももちろん対象となる。

 今回のプログラムを利用せずに、既存のWiMAXサービスをそのまま使い続けることも可能 だ。だが、UQコミュニケーションズがキャリアアグリゲーションを開始してしまうと、利用する電波帯の幅がこれまでの30MHzから10MHzに減ってし まう。そのため、最高速度も40Mbpsから13.3Mbpsと3分の1になるので注意が必要だ(ただし、多数のユーザーが移行した場合はWiMAXユー ザーが減るので実効速度はそれほど落ちない可能性もある)。

 とはいえ、今回のプログラムを適用すれば新しいWiMAX2+ ルーターが無償でもらえた上に、最高110Mbpsという2倍以上の速度で移行時点から2年間は月額3696円(税抜き)で利用できる。他の通信会社を利 用した場合にある月間7ギガバイトという高速通信データ量の制限もなく使い放題なので、大多数のユーザーは移行プログラムを利用したほうがよいだろう。

■他社とのLTE高速競争で存在感

 UQコミュニケーションズが電波を有効活用した高速通信をいち早く提供する背景には、他のグループとの差別化につなげたいKDDIグループ全体の狙いがある。 

  WiMAX2+は名前こそWiMAXとなっているが、その実態はiPhone6/6プラスで新たに利用できるようになった「TD-LTE」だ。 iPhone6だけでなく、KDDIが提供するAndroidスマートフォン(スマホ)もTD-LTEに対応したものばかりのラインアップになっている。

モバイルWi-Fiルーターを使うと外出先で高速無線通信サービスが利用できる
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モバイルWi-Fiルーターを使うと外出先で高速無線通信サービスが利用できる

 さらに、WiMAX2+でキャリアアグリゲーションを実現し最高220Mbpsでのサービスを提供しておけば、そのまま来年以降に登場するiPhoneでも利用できる可能性もある。

  ライバルのNTTドコモは来春発売するモバイルWi-Fiルーターでキャリアアグリゲーションを実現して最高225Mbpsの高速サービスを開始する。一 方、ソフトバンクはすでに165Mbpsの通信サービスを提供しており、来年には187.5Mbpsに高速化する予定だ。

  来年以降にLTEの次世代仕様「LTEアドバンス」の導入が進めば端末側のチップセットも進化する。このように、今後もしばらく高速化競争が続くことが予 測されることもあり、KDDIグループとしてはUQコミュニケーションズでいち早く220Mbps化を進めることで端末ラインアップの優位性を上げる必要 があるのだ。

 スマホのユーザーが増えると同時に端末は大画面化しており、通信トラフィックの量はますます増加している。効 率よくトラフィックをさばくには、今後も設備投資を続けながら新技術を導入していかなければならない。その際に限られた電波を有効的に使うためには、利用 しているユーザーや端末のスムーズな移行といった施策も継続的に実施していく必要がある。

 こうした状況は何もUQコミュニケーションズやKDDIに限った話ではない。各キャリアとも、常に頭を悩ましている課題といえそうだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
  月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女 性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演中(radiko、ポッドキャストでも配信)。ニ コニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp: //twitter.com/iskw226