ウクライナ情勢の緊迫を受け、エネルギー市場が揺れている。ロシアはガス代金の未払いを理由に、ウクライナ向けガス供給の停止に言及した。欧州の 天然ガス市場は今のところ落ち着きを保っているが、先行きに不透明感も強い。ロシアが強硬姿勢を崩さなければ、長期的に世界のガス市場に影響を及ぼしかね ない。

 「ウクライナに天然ガスを無料で送ることはできない」。ロシアの国営ガス企業ガスプロムのミレル社長は7日、ウクライナ向けガス供給の停止を示唆した。ロシアはヤヌコビッチ前政権への支援策だったガス価格の3割超の値下げを撤回し、新政府への圧力を強める。

  ウクライナ新政府は財政危機に直面し、ロシアに対するガス代金の未払い額は19億ドル(約2000億円)に達している。ロシアとウクライナはガス代金の支 払いを巡って対立を繰り返し、ロシアが供給を停止した2009年には、ウクライナ経由でガスを輸入する欧州諸国に影響が波及した。

 今回もロシアがガス供給の停止に踏み切れば、欧州市場への影響が懸念される。だが、欧州のガス需給を示す英国指標の「NBP」は、100万BTU(英国熱量単位、約25立方メートル)あたり10ドル前後で低位安定し、市場では今のところ様子見姿勢が強い。

欧州のガス在庫が潤沢なことが理由の一つ。今冬は例年よりも気温が高く、ガス在庫は前年同期比3割増の約400億立方メートルに達する。仮にロシア からの輸入が途絶しても、少なくても6週間は対応できる見通しだ。春先に向けてガス需要は一段と細るため、需給が逼迫する懸念は高くない。

  さらに、欧州向けガス輸送でウクライナの地位が低下しつつあることも背景にある。欧州とロシアは不安定要素の高いウクライナを迂回するガス輸送ルートの活 用で利害が一致する。11年にロシアと欧州をバルト海経由で結ぶ「ノルド・ストリーム」が開通し、年間の輸送能力は約550億立方メートルに達している。 ベラルーシ経由での輸送量も増加基調だ。

 結果として、ウクライナ経由が占める比率は、2年前の8割から6割弱まで低下している。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の本村真澄・担当審議役は「欧州向けガス輸送でウクライナの果たす役割はさらに低下するだろう」と予測する。

  3月上旬、米ヒューストンで約2000人が参加するエネルギーの国際会議が開かれた。大手商社のトレーダーによると、欧州企業からは「天然ガスの供給元と してロシアの重要性は今後も変わらない」との声が相次いだという。価格競争を迫られる欧州のエネルギー企業にとって、安価なロシア産ガスは必要不可欠とい える。

ただ、欧州政治の中心であるブリュッセルからは違う風景が見えてくる。欧州はウクライナ情勢で強硬姿勢を崩さないロシアに対し、エネルギー協力で後ろ向きな姿勢に転じつつある。

 例えば、ロシア南西部から黒海を経由し、東欧・イタリアを結ぶ「サウスストリーム」。輸送能力は最大で年630億立方メートルに達する。ロシアはすでに 建設を始め、16年の輸出開始を目指すが、計画が延期されるとの観測が出ている。欧州メディアによると、欧州連合(EU)が欧州域内でのパイプライン建設 に向けた交渉を中断し、建設の着工に「待った」をかける可能性が高まったためだ。

 東欧諸国では液化天然ガス(LNG)の受け入れ基 地の新設計画が相次ぐ。中東から欧州へのLNG供給が増える可能性があるうえ、米議会では欧州向けLNG輸出の本格解禁を求める声が相次ぐ。米国産などの LNGがロシア産ガスに価格面で対抗できるかは不透明だが、欧州諸国は政治的に「脱ロシア」を模索する動きは広がる。

 長期的に欧州で中東 や米国産LNGの需要が拡大すれば、「日本向けLNG価格の上昇につながりかねない」(大手商社)。ロシアの大手投資銀行ルネサンス・キャピタルは「ロシ アはガス輸出先としてアジアにより目を向けるだろう」と指摘、「ガスの輸出価格を巡って交渉が難航している中国と妥協する可能性が高まる」と予測する。ウ クライナを巡るエネルギー地政学は、ロシア産ガスに秋波を送る日本の調達戦略も左右しかねない。