日経新聞から以下転載
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今回の疑問は「半沢直樹のようにメガバンクは厳しい世界なんですか」

 今年、一大ブームとなったテレビドラマ「半沢直 樹」。メガバンク内での人間関係が生々しく描かれ注目を集めた。「倍返しだ!」と上司に歯向かう行員は現代のメガバンクでやっていけるのか、出世競争や派 閥争いはどれぐらい激しいのか――。メガバンクに関心のある就活生には気になるところだろう。メガバンクの職場実態を調査した。

■みずほ「うちは風通しのいい組織風土」

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  まずはメガバンクの採用担当者にあたってみる。最初に半沢直樹の原作者の出身銀行である三菱東京UFJ銀行。採用活動への影響などを聞いてみたが「個別の ドラマの話であり、(採用活動との)関係についてはコメントを控えたい」とゼロ回答。次に暴力団融資の発覚に揺れた、みずほ銀行。「半沢直樹はあまり見て いませんでしたが」と前置きしつつも、みずほフィナンシャルグループの採用担当者は滑らかに話し始めた。

 「採用担当として、半沢直樹で銀行という職場に注目が集まったのはうれしいこと。みずほは風通しがいい組織風土で、自分自身も若い頃から上司に言いたいことを言っていた。ドラマで描かれたような権力争いや出世競争は、今は全くない」

 暴力団融資問題を調査した第三者委員会は、10月末の報告書で組織の閉鎖性やコミュニケーション不足を指摘していたのだが……。外から見るのと中では「風通し」の感度が違うのだろうか。「銀行の仕事の魅力」の説明はさらに続く。

  「ドラマの中で壇蜜が『なんであんたにそんなことわかんのよ』と半沢に食って掛かる場面。半沢の『銀行員をなめるんじゃない。俺たちは経営のことは何でも わかる。経営者と本気で付き合った銀行員だからこそわかるんだ』というセリフがあったが、そういう気概を皆持っている」

 「あまり見ていない」と前置きしていた割にはドラマのセリフがすらすら。就活生にアピールするかのように……。担当者の話を額面通りに受け止める と、暴力団融資問題はあったけれど、みずほ銀は半沢のような行員でも生き生きと仕事ができる風通しの良い職場のように聞こえる。

 次に三井住友銀行。半沢直樹によって銀行のイメージは悪くなっていないか。

  「個人的には前向きにとらえている。かなり誇張はされていたが、企業と付き合う銀行の仕事の中身が伝わったのではないか。説明会でもこちらからドラマを話 題にしてみたい。銀行でやりたいことは何か、ドラマが考える入り口になってくれたらいい。あと、ドラマのような社内争いなどは感じたことはない」

■複数の就活生が「メガバンクは怖い」

 こちらも採用で半沢効果を期待しているようだった。派閥争いもみずほ同様、否定した。では、ドラマをみた就活生はメガバンクにどんな印象をもっただろうか。

 都内の有名私立大3年生の佐山裕子さん(仮名)はすでに9月から就活を始めている意識の高い就活生だが、「金融は受けない」という。「半沢直樹を見て銀行にいい印象を持たなかったから」。特におカネが絡んだ権力闘争や出世競争に嫌気が差したという。

  私大3年生の山本太一さん(仮名)はもっとネガティブ。「半沢は全部見ましたが、メガバンクは怖いと思った。特に半沢の同期が支店長に目の敵にされて心を 病んでしまう場面。原作者は元銀行員だというし、リアリティーがあった」。ドラマが話題になるなか、みずほ銀の暴力団融資事件が発覚し、「やはりメガバン クは怖い」という印象を強くしたという。金融志望だが、メガバンクはやめて地銀、信金を狙っている。

 もちろん、半沢直樹を 見てメガバンクに関心を深めた就活生もいるだろう。しかし、ドラマの内容が就活生にマイナスに作用している側面もあるようだ。複数の就活生が感じたような 悪印象はメガバンクの採用担当者が否定するように単なるフィクションなのだろうか。メガバンク行員の生の声を聞いてみよう。

 まずは出世競争について。三菱東京UFJ銀行で出世街道を歩いているバブル入行組の杉下幸一さん(仮名)の話。

  「入行するとまず支店に配属され、7年目くらいの『第1次選抜』で出世競争の号砲が鳴ります。ここから同期入行でも給料に差が開いてくる。11年目くらい で第2次選抜、14年目で第3次選抜。合格すると支店次長や本店の上席調査役に昇格。20年目あたりにある第4次選抜をくぐり抜けると支店長になれるが、 ここまでたどり着けるのは同期入行で1割以下かな。選抜試験の合否は勤務成績と人事部による面接によって決まる。面接は長いと1時間ぐらいで、発想力や実 行力を試される」。やはり、出世競争はかなり熾烈なようだ。

ドラマでは合併前の出身銀行ごとに行員が固まって、激しい派閥争いをしていた。

メガバンクに派閥争いはあるのか……(写真は左から三菱東京UFJ銀行本店、みずほ銀行本店、三井住友銀行本店)=共同
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メガバンクに派閥争いはあるのか……(写真は左から三菱東京UFJ銀行本店、みずほ銀行本店、三井住友銀行本店)=共同

  「旧UFJでは三和銀行出身者が東海銀出身者を冷遇するケースがあったが、東京三菱主導の統合後は出身行による派閥争いは徐々に減ったかな。昔の三菱銀は 東大閥が強かったが、今は実力主義。日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)、大東亜帝国(大東文化、東海、亜細亜、帝京、国士舘)の出身でも実力次第で支店 長にはなれる」。経営統合から年数を経たせいか、出身行による派閥争いは減り、実力主義が浸透してきたようだ。

 もちろん、実力主義ゆえの競争も激しいだろう。就活生が「ブラック企業かどうか」の目安にする「3年以内離職率」をメガバンクは明らかにしていないが、どうなのだろう。厚生労働省のデータでは全産業の3年内離職率は約3割だ。

  「リーマン・ショック前は3年以内で2割強は辞めていた。プロジェクトファイナンスや為替ディーリングなど銀行が良いイメージを振りまき、入行後の地味な 仕事とのギャップに苦しむ新入社員が多かったから。リーマン後は就職難もあって離職率は低下傾向にある」。どうやら全産業平均は下回っているようだ。就活 生に人気のメガバンクだが、ある程度は仕事の中身を理解していないと入ってから大変なようだ。

 今度は最近までメガバンクの支店で働いていた30歳前後の若手行員に支店勤務の実態を聞いた。銀行は他産業と比べても上意下達の傾向が強いように見えるが、「クソ上司に倍返し」はありうるか。

■支店長は「神」

  「上司に口答えなど絶対にありえませんね。僕ら若手にとって支店長や部長は『神』のような存在です。若手が直接話をすることはまずありません。さらに上司 に嫌われるという事態は絶対に避けないといけない。もし嫌われて融資実行の判がもらえなかったら、お客さんに大変な迷惑がかかる」

  みずほ銀行でバブル入行組の上村真一さん(仮名)も「支店長に嫌われたら上に行けない」と言い切る。「支店での行員の評価は支店長の査定がすべて。どれだ け数字をあげても支店長の推薦がなければ希望の部署に異動できない。支店長に気に入られ、自分のプランで数字を達成できる人間であれば上にいき、大きな仕 事ができます」。

 三井住友銀行の元行員で現在は転職した香山裕さん(仮名)も「支店長には絶対に気に入られるようにしない といけない。そして実績をあげる。30代で課長代理になれれば、道は開ける。銀行では将来有望の人は課長ぐらいになると『○○さんを囲む会』というのが自 然にできる。出世したい人はそういう会にいくつも入っていた」。

 「支店長に逆らってはいけない」――。これがメガバンクでの必須の処世術のようだ。「倍返し」の半沢はかなり異質ということなのだろう。

 支店長の推薦をうけ、支店から本店に引き上げてもらうと出世の道が開けてくる。メガバンクの出世コースは昔から人事、企画、秘書の3部門で、そのなかで も人事が一番という。なぜ人事が最上のエリートなのか。人事部門は膨大な数の行員の個人情報を知る立場にあり、銀行への反発やミスによって情報を漏らすと いったトラブルは決して許されない。そうしたミスを絶対に犯さない人材を厳選するうえ、銀行を裏切らないように優遇するからだという。

■40代から片道切符の出向

 もっとも、出世競争に勝ち残るのは一握りで運も左右する。多くの行員が中途で出向していくのが実情だ。

  「同期が支店長になる40代から片道切符の出向が始まる。証券や信販などのグループ会社に出向できれば御の字。銀行との関係を維持したい取引先から『来て ほしい』と言われるケースもある。しかし、取引先で偉そうにして嫌われて半年ぐらいで戻ってくる人もいて、銀行でも誰も引き取らない。そういう人を集めた 部署もある」(みずほの上村さん)

 メガバンクの行員は社会的信用もあるし待遇もいいが、上司に口答えは許されないようだし、出世競争も大変そう。どんなところにやりがいを求めているのだろうか。

  三菱東京UFJの杉下さんは「自分で稟議を通して企業に融資し、企業が成長する姿をみると自分が貢献できたという実感がある」と企業融資の魅力を説明す る。一方、元三井住友の香山さんは「融資もそうだけど、債券や為替のディールなど資金を動かして大きな仕事ができること」とスケールの大きさを強調する。 ノルマや出世競争は厳しいが、影響力の大きいメガバンクでしか味わえない仕事の醍醐味があるようだ。

■調査結果

 出世競争や人間関係は厳しいが、乗り切れば大きな仕事ができる可能性も。

 次回は12月18日(水)に掲載予定です。メガバンクの驚きの内情を関係者による覆面座談会形式で報告します。

《今回の探偵》
松本千恵(まつもと・ちえ) 2007年早稲田大学第一文学部卒。大学院受験に失敗し4年生 の2月から就職活動を始め、担当教員に提出済みの卒論を不可にしてもらうという荒技を使い留年、5年生の4月に日経に内定。記者になる前は営業をしていた が念願かないこの春から編集局へ。同じ会社とは思えない文化の違いにとまどうことも…。
松浦龍夫(まつうら・たつお) 2002年同志社大商学部卒。大学時代に唯一まじめに読んだ 書籍の作者が面接官という偶然に恵まれ日経BPに入社。12年から日本経済新聞社編集局に出向。相槌をうつ隙さえ与えない熱いマシンガントークが売りだ が、肝心の取材相手をも沈黙させる弊害も…。
諸富聡(もろとみ・さとし) 2009年東京大学文学部卒。リーマン・ショック直前の「売り 手市場」での就活だったが屈辱の25連敗を経験。悔しさをバネに奮起、日経から内定をもぎ取る。電子版の画面表示のプログラムもいじれる「ビジネスリー ダー」取材チームのマルチ記者。データ解析が好きな頭脳派。

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読者からのコメント
40歳代男性(建設)
所詮はドラマ、現実とは違う。
40歳代男性(卸売・小売業・商社など)
自分は総合商社にいて現在投資先に出向中だが、商社では出向して多様な経験を積むことが出世への必須条件であり、出向は当たり前。ドラマで「出向=敗者」というステレオタイプが蔓延したのは残念。
20歳代以下男性(コンサル・会計・法律関連)
非現実的な幻想を抱いて銀行員になってしまう人がいそう。実際はもっと理不尽なことがおおいのに。
60歳代男性(電気、電子機器)
ドラマはまったく漫画チックに描かれており、現実には99.999%あり得ない。
40歳代男性(建設)
半沢直樹みたいな性善説はメガバンクには必要悪。 財務内容よりも人間性や事業の必要性などで融資するなど見たことないし、聞いたこともない。いまだに強いものには弱く、お金のない者には強烈に強い。
60歳代男性(医療)
あくまで小説・ドラマですが、こんなドロドロとした世界は、厳しいと思います。職場としての銀行は、とても厳しいと感じました。