後悔はないと言ったけれど

 

 

 

夫が口を開く。

 

「何か・・・何かこの子にしてあげられる治療はないんですか・・・・」

 

 

ない。ないんだよ。

私は何度も先生と話して、モルヒネ的なものさえ難しくて、緩和ケアとはという方向で舵を取るしかないことを痛感しているタイミングだった。

抗がん剤が効きにくい癌だってことも、I先生は話してくれて私は知っているんだよ。

 

 

K先生はちょっと考えて、チラッとこちらを見た(気がした)

 

「あくまでも、根治を目指すというわけではなく、ガンの進行をゆっくり出来るかもしれない。

効かない可能性も高い、おまじない程度の弱い抗がん剤を試すっていう選択肢はあります。」

 

 

「僕はやりたい・・・」号泣しっぱなし。

 

「先生、抗がん剤は考えてなかったのですが、その効果は本当に弱いものなのですか?」とカットインしてみる。

「うん。」

 

 

抗がん剤が元々効きにくいタイプの癌だって聞いていて、だったら高濃度ビタミンC点滴をやりたいな と元から考えていたので、ここに抗がん剤というワードが出てきたことに迷いが出た。

積極的治療の手立てがないのだから、緩和ケア、犬の尊厳を保って、痛みを取り除いて寄り添っていく そう思っていたはずだったのに。

 

 

あまりにも泣く夫を見て、気休めにしかならないのがわかっていて、高額だけど、夫の罪悪感が少しでも晴れるなら試してみるかと思いました。

 

 

「試してみたいんでしょ?トライで1クールだけでいい?」

問いかけに相変わらず涙が止まらない夫はうなづきました。

 

K先生は、その場でかかりつけに電話をしてくれて、抗がん剤(パルディア)の取り扱いがあるかも確認してくれた。提携して治療に携わってくださる気がしてありがたかった。

 

 

私はこの時この提案をしてくれた先生のことはこれっぽちも悪いと思っていない。

やりたいといった夫のことは、思い出すと舌打ちしたい程度には悪いと思っている。

でも絆されてトライしてみるかと決めたのは私。

 

 

夫は、琥珀のことが心配過ぎて、一旦家を出て別拠点でしていた仕事を引き上げて戻ってくると宣言。

 

外に出たらとっぷりと暮れていて、冬の冷たい雨が容赦なく降り注いでいた。

琥珀はトイレしたいかなと高度動物医療センターの芝生を歩かせてみたけど、しっこも大もしなかった。

 

支払いは、20万以上30万弱といったところ。

 

 

暗い道を暗い気分を抱えて、家に戻った。

 

 

夫が自宅に拠点を戻す準備を整えるまで、一人と一匹暮らし。

1回目の抗がん剤投与。

チーズに混ぜてあげたらパクっと食べた。

 

 

2回目(12月10日)。

今回も同じように投与。

翌日、夫が引き上げてくる予定。

 

同日夜。

一切ご飯を食べなくなって、表情がなくなり、散歩も拒否で動かない。

夜寝るときに電気を消すと寝室に来るのに来ない。

その日は疲れて、そのうち来るであろうと寝てしまった。

 

11日朝。

寝室に琥珀がいない。

水を飲みにでも行っているのかとリビングに向かうと、昨日と同じ場所に

昨日と同じ姿勢で動けない琥珀がいた。

 

慌てて、かかりつけI病院に電話。

ビタミン入り点滴、ステロイド投与。

抗がん剤が合わないのかもしれない。3回目の投与は中止。

帰宅後は表情が戻り、元気も取り戻し、足取りも良くなるが食べたがらない。

夜、また表情がなくなってしまう。

 

夫に逐一報告。

この頃、私は琥珀の治療代のために短時間でのアルバイトに出ていた。

どうしても翌日の朝、数時間家を空けないといけない。休むに休めない。

私が家を出てから、夫が戻ってくるまで2時間。ついたらすぐに病院へ連れて行くように申し渡し。

 

 

 心配で心配で。

 様子はどうか と連絡をすると、まだ病院に連れて行っておらず、どうしたのかなぁなどと暢気な返事が返ってきたので激高してしまった。lineでだけど。

 抗がん剤が合わないの。すぐに連れて行って。

 早めの昼休憩にした連絡だったので、頭にきていったん家に帰るべく準備をしたぐらいに。

帰路の途中で、病院に連絡したこと、すぐ連れていく旨の連絡が来て、就業場所へ戻った。

 

 12月12日(日)

11日と同じ処置をされる。

夫にもI医師より「琥珀ちゃんは抗がん剤が合わないみたいです」という話が合ったと聞く。

 

 この日から、私は夫の治療希望は一切聞かないと決めた。

ここまで寄り添ってきたのは私。

先生と辛い話を重ねてきたのも私。

心配で、不安で、どうしたらいいのか悩んできたのも私。

全部ひとりだった。

 

全部ひとりに任せてしまったことを謝られはしたけれど、この人には任せられないと思ってしまった。

 私が仕事で明ける数時間だけ、そばにいてくれる人だと思おう。

そう決めました。

 スーパーに行く時間でさえ惜しかったけれど、家に誰かいるなら行ける。

 

 ごはんを食べるのは生きること。

食べてもらえるにはどうしたらいいだろう。

 

 

 よし。

 とりあえず、食料確保だ!