③からのつづきです。

 

別の部屋に行けと言われ、
(この使用済みゴムはやばいなー。Sexの証拠になるな。) 
と妙に冷静な頭で、ゴムを丸めて自分のズボンのポケットに押し入れた。 


勿論、カルピスがこぼれないように、ティッシュで上手くくるんで。 


 服を着ると別室に連れていかれた。 
その部屋は4畳半くらいで、真ん中にマージャン用テーブルが置かれ、 
その上で裸電球が一つだけ揺れているだけだった。 

そして、マージャン用テーブルの向こうには 
先ほどのサングラスをかけたボスらしき男が座っていた。 
(なんか、ドラマか映画みたい・・・。もしくはドッキリか!いや、ドッキリであってくれ!)

と願う私。


現金の持ち合わせは約4000円・・・。 
時計は北京の露店で買った贋物ロレックス・・・。 
パスポートも身分証明書もホテルに置いてきた・・・。 
このまま殺されて、埋められても何の証拠も残らない・・・。 
ホテルは宿泊客が帰らないと探してくれるだろう・・・。 
でも、俺がこんな人里離れた林の中の建物に居るのを見た人はいない・・・。 
タクシーの運転手なんかあてにならない・・・。 

まずいー!超まずいー!マジで人生始まって以来の大ピンチじゃないの==! 

と、一瞬で考えているうちに、私の腹を殴った男に促されボスの前に座らされたのだった。 
そして、ボスとの片言英語と漢字の筆談での対話は始まった。 

彼の言うには、 
中国で売春は禁止。 
すれば刑務所行き。たとえ外国人でも。 
しかし俺は警察にコネがあるから、交渉すれば大丈夫。 
交渉するためには賄賂を渡さなければならない。 
金額は約40万円ほど(日本円換算) 

やはりそういう事だろうな~と思いつつ、 
何とかこの場所から出て、人のいる所に戻る事が先決と考えた私は、 

「いやー、もっともだ。 
本当に申し訳ない。誤る。すみません。」 

とうなだれて、頭を下げた。 
 でも、持ち合わせは200元しかない。 
が、ホテルに行けばクレジットカードがあるからそれで払える旨を伝えると 
しばらく考えてたボスは、おとなしくうなだれてる私を見て安心したのか、ホテルに向かう事となった。 

タクシーが呼ばれ、ボスは私が逃げないようギュッと腕を摑んで、後の席に二人乗り込んだ。 

 そして北京シェラトンホテル(長城飯店)へ向かった。 
途中、私は 
「本当に貴方で良かった。出なければ刑務所に入れられるところだった。Thank you! Thank you!」 

とボスに握手したりして彼の機嫌を懸命にとった。 

 そして彼に気づかれずに証拠となりそうな、使用済みゴムを 
タスシーの窓から投げ捨てた。 

そうしている内にホテル到着。 

 ホテルの回転ドアの前に来た頃には、信用したのか私の腕に手を添えるくらいになっていた。 

回転ドアをくぐると、 
白人達数人がロビーで談笑している。 
正面受付にも5人位のホテルスタッフと横に屈強そうな警備員がものものしい制服を着て立っている。 

そして私は、今だ!とばかり、 
ボスの手を振りほどき駆け出した。 

そして大声で 

「HELP! HELP!HELP ME----!!!!」 

と叫びながら、受付へ駆け出した。 

 こういう時、映画ではスローモーションになるが、まさしくスローモーション映画のように感じた。 
自分の足が思うように動かない気がしてもどかしい。 
警備員が私に駆け寄ろうとしているのもスローに感じる。 

そして受付に頭から飛び込み、向こう側にダイブした。 
飛び込みながら後を見ると、ボスが身を翻し回転ドアの向こう側に消える所だった。 

警備員とホテルスタッフが駆け寄り、 
「どうした、何があったのか」と聞いてくる。 

私は 
「That man will kill me! Help! help me! Please catch him」と訴えた。 

すると直ぐに警備員室長や警察まで登場して事情徴収がはじまった。 

私は 
「マッサージという事で女性に連れられ、林の中の工場みたいな建物に連れ込まれ、

女性と二人だけの部屋で裸にされマッサージを受けた事。

そして男達が乱入しSEXをしただろうと脅され、金をとられた。」 
とSEXだけはしてない事にして、それ以外は正直に告げた。 

 これでまあ、注意されて終わりだろうと思っていると、警察官が予想外の事を言い出した。 
「場所を覚えているか?今から乗り込んで、そいつらを逮捕しよう。」と。 

(まじ~!?それはやばい。俺がHしたのばれる。それにそんな所に二度と戻りたくない) 
と動揺する私を尻目に、ホテルから連れ出されてパトカーに乗せられた。 

こうなりゃ仕方ない。

覚えてない事にして間違った道を教えようと、記憶をたどり全然違う道を教え、

北京郊外をウロウロとパトカーを走らせた。 

ようやく無理だという事になりホテルに戻った私に、 
警察官は 
「迷惑をかけて申し訳ない。北京にも悪い奴はいっぱいいるが、良い人間のほうが多い。 
これからも中国を嫌いにならないで。」 
と握手を求められた。 

私は 
「いや、迂闊について行った私も悪い。お手数をお掛けして申し訳ない」 
とその手を握り締めた。 

 その後、警察官が出て行った後は不安でしょうがない。 


夜、襲ってきたらどうしようとか・・・ 
でも彼らは私の名前も部屋番号も知らないはず。と自分に言い聞かせ何とか眠った。 


そして翌朝、夜明けと同時くらいにホテルをチェックアウトし、空港に行き飛行機に飛びのったのであった。 
(北京美人局編:完)