出口が見えた時
「え、もう終わり?」
と思った。
最後のブースでは
スクリーンに創作風景が映し出されていたが、
耳障りに感じるナレーションでは腰を降ろして観る気がしない。
なにより、本物を観に来たのだ。
映像なら後でいい。
気になった作品をもう一度。
ゆっくりと順路を逆行する。
さっきまで視界に入らなかった、
自分と同じく作品を眺め歩く人達の姿まで、
楠のように見えてくる。
森か、ここは。
周回しながら気づいたのは、作品のタイトル。
ひとつひとつ印象的なものばかりだ。
一画には作家の走り書きメモや
小さなドローイングなどを集めたコーナーがあった。
夢で見た景色やTVで見聞きした印象的なことを書き留めているらしい。
『捨ててもいいもの
本当のリアリティーのないもの
人に押されて出場するレース』
一番引っかかったのは
「水に映る月蝕」
・・・去年の作品なんだ。
少しでも、作家の今に触れたみたいで嬉しい。
何度も周回しながら見つめる。
背中に羽根のように伸びた両の手のひらに、
この手を重ねてみたくなる。
少しでも触れたら、ぎゅっと掴まれそうで恐くもある。
気がすむまでぐるぐる廻った後、出口へ向かう。
お決まりのグッズ売り場にはカードが沢山並んでいた。
どれを見ても、今見てきたものと違う。
カードや図録を手元に置いて“知った”気になっちゃいけない、と
自分を戒めるような気持ちで、友人へのおみやげ以外は買わなかった。
ひとつだけ、自分用に
「カードや図録(要するに写真)じゃないからいいか」とクリアファイルを買ったけど。
・・・これも気になった作品だったから。
「支えられた記憶」
支えたのは誰だろう。
並んだ顔は、同じに見えた。
支えたのは、もう1人の自分か。