「旅をする木」星野道夫 | ​ 観るチカラを、生きる糧に。 ー SCREEN(私設)研究所

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観る映画が、あなたの、わたしの、人生のヒントになる。
ここは、SCREEN(私設)研究所。

潜在数秘術×映画で
「観る」ことと心の関係を
映画を通して読み解いていきます。




ひとつひとつが手紙のように綴られた
深く優しく静かな、言葉

「地球交響曲第三番」にも登場したこの
「旅をする木」は
本当に旅先から届いた手紙のようだ。



  「南アメリカは本当に遠い世界だったのに、こんなに速く来てしまった
  ことがなかなか納得いきません」



―飛行機でひとっ飛び、のそのスピードに
身体も気持ちもついてこない、なんて(笑)―という

星野道夫の視線は
フェアバンクスでも東京でもガラパゴスでもザルツブルクでも
自分の十代を語る時でさえ、いつも同じ。

自然をやたら褒めちぎるわけでもなく
ひとを憂うでもなく
ただ自分の心惹かれる人たちと
自然と
動物たちのことを話してくれる。



・・・私は面識すらないけれど
もし手紙をもらうことがあるとするならきっと
変わらずこんな調子なのではと思わせる
そんな言葉。


この本を読む人には、誰にでも
星野道夫というひとからの私信が届く。



・・・印象的なのはやっぱりビル・フラーかな。

「人間とは生きてゆく上で時どき励ましを必要とする生き物なら、
ぼくは確実にその力をビルからもらっていた」


という、星野道夫が“本物”と語る友人。



「-30℃まで下がると自転車のタイヤと雪のくっつきが実に良くなるんだよ」
てのはわかる気もするけれど
-20℃程度なら裸足にゴムぞうりで
自転車乗り回してるって・・・


某汗かきギタリストさんを知ってからは
「そういう身体のヒトもいるんだな」って
頭では理解できたけどね(笑)


この章には「生まれもった川」というタイトルがつけられている。
生まれもった川を“旅をする木”か・・・



「ビルの存在は、人生を肯定してゆこうという意味を
いつもぼくに問いかけてくる」


友人から時どき励ましをもらうって、いいよね。
彼が
北極圏に生きる人たちに惹かれる理由が
少し、わかった気がする。




そして、この本を読む時は
気をつけなくてはいけない。

なまじ無防備に読み始めると
入った“泣き”がどうにも止められなく
ところかまわず泣き顔をさらして歩くハメになるから。


私の心も、深くて、浅い。


『人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で
風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。
人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。
きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。』




『ちょっと考えただけでもある無力感におそわれます。
それは正しい答えが見つからないからでしょうか。
けれどもこんなふうにも思うのです。ひとつの正しい答えなどはじめから無いのだと・・・
そう考えると少しホッとします。
正しい答えをださなくてもいいというのは、なぜかホッとするものです』




“私たちはここまで早く歩き過ぎてしまい、心を置き去りにして来てしまった。
心がこの場所に追いつくまで、私たちはしばらくここで待っているのです”




『その日その日の決断が、まるで台本のない物語を生きるように新しい出来事を展開させた。
それは実に不思議なことでもあった。
バスを一台乗り遅れることで、全く違う体験が待っているということ。
人生とは、人の出会いとはつきつめればそういうことなのだろうが、
旅はその姿をはっきりと見せてくれた。』




『人生はからくりに満ちている。
日々の暮らしの中で、無数の人々とすれ違いながら、私たちは出会うことがない。
その根源的な悲しみは、言いかえれば、人と人とが出会う限りない不思議さに通じている。』


旅をする木旅をする木
星野 道夫

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